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- 【理系とーくラボ勉強会】パソコン・スマホに欠かせない電池 そもそも電池ってなんですか? - 2021年8月9日
今や世界中に電気が普及しており、日常生活の中で当たり前のように電気を使っていますよね。
例えば、
朝起きたら部屋の電灯をつける。冷蔵庫で食べ物を冷やす。テレビでニュースを見る。
私たちが生活する上で電気というエネルギーは本当に便利で扱いやすいものです。そんな便利なエネルギーを手軽に持ち運べるものが電池、いわゆるモバイルバッテリーです。みなさんが使用されているノートパソコンやスマホには必須アイテムです。
ここで、電池という言葉を使いましたが、皆さんは電池がどういう装置かご存知ですか?
電池は化学エネルギーを電気エネルギーに変換する装置のことを言います。電池を理解するためには化学の中でも電気を扱う分野である電気化学の知識が必要になってきます。今回は簡単に電気化学について学んで頂きながら、電池について理解を深めて頂ければと思います。せっかくなので最近話題の燃料電池を題材にお話しします。水素と酸素を使って電気を取り出し、排出されるのは水だけという夢のような装置ですね。
ここからは少し余談です。
電池は化学電池と物理電池に大別されます。今回紹介する化学エネルギーを電気エネルギーに変換するものを化学電池、そのほかに物理エネルギーを電気エネルギーに変換するものを物理電池としています。物理電池は太陽光発電などが含まれます。ちなみに電池という名前は、容器に液体電解質を入れて使われていたので、電気を溜める池とみたことが由来と言われています。ボルタ電池とか調べてもらえるとイメージしやすいと思います。
(CMです)
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電気化学って?
ざっくりと、物質の電気的な側面に注目した化学分野です。
一般的に化学反応といえば発熱・吸熱を伴う熱化学反応が多いです。例えば、水素と酸素を反応させて水ができる反応とかです。反応式で書くと以下のようになります。dHはエンタルピー変化を表します。ここでは反応熱の意味です。
H2 + 1/2O2 -> H2O (dH = – 286 kJ·mol–1)
一見、電気は関わっていないように見えて、電気化学は役に立ちそうにないですよね。実はこの反応は水素の電子と酸素の電子が組み換わることで成立しています。すなわち反応系の中で直接電子のやり取りをしているわけです。電子が動くということは電気が関わっています。この反応を上手に制御できれば、熱化学反応ではなく電気化学反応に出来そうですね。
ここで、電気化学の出番です。電子の動きを制御したいので、電子のやりとりを伴う酸化還元反応として扱えると都合がいいです。つまり、以下のように反応を2つに分けるわけです。
酸化反応:H2 -> 2H+ + 2e–
還元反応:1/2O2 + 2H+ + 2e– -> H2O
このように考えると、反応式の中で電子がやりとりされていることが分かりやすいですね。薄々勘づいている方もいらっしゃるかと思いますが、実はここら辺は高校までで習う事項です。少し回りくどかったかもしれませんが、電気化学では化学反応を電気的側面から捉えます。逆の視点から見ると、化学反応を電気的に制御することも可能ということです。
電子のもつエネルギー
さて、電気化学では化学反応を電子のやりとりとして捉えるわけですが、電池を考えるためには電子のもつエネルギーについて考えなくてはなりません。ここから急に難易度が上がると思うので、頑張りましょう。私も頑張って書きます。
電子は単独で扱う場合は特に外部からの電場印加が無ければ、電子のエネルギーを考える必要はありません。しかし、通常は原子や分子に付随しており、それらの化学的な性質の影響を大きく受けます。このことから電子は化学エネルギーをもつことがわかります。また、電子は付随する物質の帯電状態の影響も受け、静電的エネルギーももちます。これらのエネルギーを合わせて電気化学ポテンシャル(電子のエネルギー準位)と呼びます。その物質内で電子がどれだけ安定に存在しているか、または電子の離しやすさ・捉えやすさと考えてもらって大丈夫です。
電気化学ポテンシャル = 化学エネルギー + 静電的エネルギー
以上の話を踏まえると、銅と鉄を触れさせた場合、瞬間的にごくわずかな電子が動きます。これは、鉄の電子の電気化学ポテンシャルは銅のそれよりも高いためです。電子が動いた結果、これらの電気化学ポテンシャルは等しくなります。この時、化学エネルギーと静電的エネルギーのどちらが関わっているのでしょうか。電気化学ポテンシャルが等しくなったとはいえ、銅は銅、鉄は鉄ですので化学エネルギーに変化はないはずです。つまり、静電的エネルギーの準位が変化することで電気化学ポテンシャルの帳尻を合わせていると考えられます。
電池まであと一歩です。
銅と鉄を触れさせた場合、電気化学ポテンシャルの差から電子を動かせたわけです。すなわち、電気化学ポテンシャルの差を維持できれば、電子を動かし続けられるはずです。
電池にしよう
化学エネルギーから電気エネルギーへ
最初の方で示した水素と酸素の電気化学反応式を再び見ていきます。
酸化反応:H2 -> 2H+ + 2e–
還元反応:1/2O2 + 2H+ + 2e– -> H2O
実は化学反応によって電子のエネルギーは異なります。すなわち、水素から電子を取り出す時のエネルギーと酸素が電子を受け取る時のエネルギーには差があるということです。それぞれの化学エネルギーが異なるからです。冒頭で電池は化学エネルギーを電気エネルギーに変換する装置と言いました。実際、どのようにしてエネルギーが変換されているのでしょう。ここから電池への応用に向けて少し難しい話をします。
電池は電極と電解質で構成されます。電池として機能させる場合、電気エネルギーを外部に取り出すためにこれらの反応を電極表面でおこなう必要があります。電池としての電圧は電極間で得られるため、電極内の電子の電気化学ポテンシャルの差に依存します。同じ金属同士であれば電極内の電気化学ポテンシャル差はありませんが、電極表面での電気化学反応により電子のやりとりがおこなわれ、電気化学ポテンシャル(静電的エネルギーの部分)が変化します。この時、酸化体・還元体(今回でいうとO2・H2)が十分に多く存在していれば、電気化学反応の電気化学ポテンシャルは変化せず、電極内の電気化学ポテンシャルのみ変化すると考えられます。
つまり、実際に電池の電圧としてみているものは電極内の電子の電気化学ポテンシャルの差(静電的エネルギーの部分)であるが、それは電気化学反応の電気化学ポテンシャルの差(化学エネルギーの部分)から来るということです。厳密には電池が作動している時、電極内と電気化学反応の電気化学ポテンシャルは異なりますが、ややこしいので今回は等しいものとして扱います。
電気エネルギーを取り出す
さて、いよいよ電気エネルギーを取り出しましょう。次の図のように電極周りにそれぞれ水素と酸素をバブリングさせて電気化学反応の準備をします。あとは銅線をつなげば、電池として機能するでしょうか。
残念ながら、これではすぐに電子の流れは止まってしまいます。なぜなら、電極での反応は酸化還元反応なので、反応が進行するほど電解質が帯電してしまいます。帯電すると何がいけないか、静電的エネルギー準位が変化してしまいますね。せっかく準備した電気化学ポテンシャルの差が静電的エネルギーの変化で打ち消されてしまいます。これでは電池として使えません。
それでは、どうするか。帯電してしまうことがいけないのであれば、電気的にくっつけてしまえば良いわけです。しかし、ここで電子が流れてしまうと困ります。銅と鉄をくっつけた時のように、電極間の電気化学ポテンシャルが等しくなってしまうからです。そのため、電子は通さずイオンのみを通す膜を使います。
イオンのみを通すことで、電解質部分の静電的エネルギー準位を等しくしたまま、電極間の電気化学ポテンシャルの差を保持することができました。これにより化学エネルギーから電気エネルギーを取り出すことが可能な電池となりました。
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最後に
電池を電気化学として理解する今回の記事はいかがでしたでしょうか。高校まででは、なんとなく酸化還元反応の半反応から電池の説明がされていました。今回、電子のエネルギー準位(電気化学ポテンシャル)に注目してみました。電池はどうして電気エネルギーが取り出せるのか、これまでとは違った視点で捉えることが出来たのではないでしょうか。
実際に電池を開発する上では、電極材料やイオンのみを通す材料(イオン導電体と呼んでます)の開発が進められています。実用化に向けて様々な課題を乗り越えたものが皆さんの手元に届いています。今回は燃料電池を題材にしましたが、最近は全固体電池も話題になっていますね。電池の材料開発はまだまだ尽きることなく続けられています。もし、本記事で電池に興味を持って頂けましたら幸いです。
科学系オンラインコミュニティ「理系とーくラボ」では8/14(土)20:00よりZoom講座がおこなわれます。本記事内容の電気化学の基礎に加えて、最新の全固体電池の材料開発や水素エネルギーの電気化学的な利用について発表します。
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