【生命がもたらす有機化学】天然物化学のここがすごい!

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maiki

大学院では有機合成化学を専攻。 現在は、化学メーカーで医療機器と知財に関わってます。 幅広いトピックの記事制作に取り組みたいと思います!
maiki

どうも、maikiです!

初めての投稿なので是非是非温かい目で読んでいただけると嬉しいです。

さて、今回紹介するのは僕の専門分野の一つである”天然物化学”についてです!

有機合成者だけでなく、創薬研究をこころざす方々にもぜひ読んでほしいです! 

 

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天然物化学って何?

天然物化学とは、おおざっぱに言うと、”生物がもたらす有機化学”です。

というのも、そもそも天然物は文字通り生物が産生する物質のことなので、それを有機化学に落とし込めたものが

”天然物化学”

と言えるでしょう。

では、天然物化学はどのように発展してきたのか、天然物化学の歴史をたどりながら見ていきましょう!

 

天然物の歴史

 

天然物化学=有機化学?

早速、天然物化学をWikipediaで調べてみると一行目にこう書いてありました。

もともと有機化学は生物のみが産生することができるとされていた物質を扱う化学の一分野であったので有機化学=天然物化学であった。

引用: Wkipedia-天然物化学

maiki

あながち間違ってはない!(笑)

というのも、19世紀初頭は「有機化合物は生命体の特別な力によって生み出されるもの、その他を無機化合物」という考え (生気説)が信じられていました。

そういった意味では天然物化学=有機化学と言われるのもうなずけますね。

しかしその生気説が覆されるような事件が起こります‥‥

F. Wöhler (1800~1882)は尿素、その弟子であるH. Kolbe (1818~1884)は酢酸の(全)合成を達成したのです。

AgOCN + NH4Cl →CO(NH2)2

⇧現在この合成法は”ヴェーラ―合成”と呼ばれており、有機化学のスタートといっても過言ではない合成法です。

 

鮮やかなセレンディピティ

19世紀半ばでは、W. H. Perkin (1838~1907)がキニーネの合成に着手していましたが目的物は得られず、タール (粘り気のある黒~褐色の油状液体)しか生成されなかったそうです‥‥。

しかしPerkinが厄介なタールを取り除くためにアルコールを加えたところ、なんと鮮やかな紫色に変わったのです!

こうして人工染料モーブの発見により、天然物化学は人工染料化学の土台となりました。

 

そして天然物合成の時代へ

20世紀に入ってからのこと、ウッドワード・ホフマン則で有名なR. B. Woodwards (1917~1979)が1944年にキニーネの全合成を達成しました。 

彼は16歳でマサチューセッツ工科大学 (MIT)に入学し、20歳の時1年で博士号を取得したという紛れもない天才です。

その後彼はコレステロールコルチゾンストリキニーネレセルピンコルヒチンなどの全合成を達成、1965年にはノーベル化学賞を授与されています。

その偉業に触発された多くの化学者は次々に天然物合成の研究に没頭していきました。

1900年代から単離手法の向上や分析手法の発展、1960年代にはE. J. Corey (1928~)逆合成解析という合成経路設計の土台をつくりあげ、天然物合成はすさまじい発展を遂げました。

今もなお天然物化学は有機合成化学の重要な要素であり、今後の発展に期待すべき分野であることは間違いありません。

 

天然物の軌跡

天然物化学にはさまざまな軌跡 (奇跡)があります。例として天然物合成の金字塔と呼ばれる合成を紹介します。

 

ビタミンB12の全合成

この全合成は1972年にR. B. Woodwards (1917~1979)、A. Eschenmoser (1925~)らによって達成されました。

まずビタミンB12の構造式を見てみましょう。

 

maiki

大きすぎん??

はい、そうなのです。彼らはこの巨大な構造式を持つ天然物 (生体物質)を全合成したのです。

天才という言葉すらはばかられるほどの偉業ですね。

もちろん大きいだけではありません、かなり複雑な構造であるもの一目瞭然です。

その複雑な構造の全合成は多くの課題を抱えていました。

まず、多くの立体選択性

この構造には全部で14不斉点があるため、高度な立体選択的合成をしなければならないのです。

不斉点とは、上の画像内にあるR, Sと書かれている部分のことです。

重ね合わせることのできない鏡像を持つ分子の性質のことを言い、物理的性質はまったく同じなのですが化学的性質が異なるため生化学や天然物化学、創薬化学においては非常に重要な性質となっています。

次に、コバルト原子の導入と大員環 (コリン)の形成です。

コバルト原子を導入するのはWoodwardsも苦しめた合成でした。しかし共同研究者のEschenmoserによってコバルトの導入は達成されました。

足りない部分を補い合える素晴らしいタッグですね‥‥

その他にもさまざまな困難がこの全合成には存在したのですが、およそ10年ほどで達成しちゃうのです‥‥

それも総工程数はなんと90段階以上もあります。

maiki

お、おそろしい。

奇跡でもあり、努力の賜物でもあるビタミンB12の全合成は間違いなく天然物化学、有機化学の歴史に残る偉業ですね。

 

天然物と創薬

僕は今”創薬科学科”という学科に所属しているので一応創薬についても触れたいと思います(笑)

天然物合成は創薬研究の重要な基盤となっているのは言うまでもありません。

1928年に世界初の抗生物質であるペニシリンが発見されてからアカデミアや製薬企業は微生物から天然化合物を探索するようになりました。

最近では大村 智 (1935~)氏が土壌菌からイベルメクチンを開発し、その功績が称えられ2015年には日本人で3人目となるノーベル生理学・医学賞を受賞されました。

イベルメクチンは抗寄生虫薬の一つで、土壌中の放線菌 (グラム陽性真正細菌の一つ)から産生されるアベルメクチン (エバーメクチン)に化学修飾を施したものであります。

このイベルメクチンの合成経路では天然物から得られた成分を用いており、この方法を半合成というのですが、

天然物由来の創薬においてこの”半合成”は非常に重要な役割を担っています。

半合成は天然物創薬の全合成ではカバーしきれないような複雑な構造や高価な前駆体分子という障壁をクリアできる可能性を秘めています。

前駆体分子は全合成における標的化合物や合成中間体についての前段階で合成される分子のことを指しており、半合成ではこれを出発原料として合成するのです。

多くの重要な医薬品、例えばβ-ラクタム抗生物質などには半合成が非常に有用で、大量生産にはもってこいの合成法なのです。

β-ラクタム抗生物質には例としてペニシリンセファレキシンなどがあります。

天然物化学や創薬を専攻されていない方々もこれらの薬を聞いたことがあるのではないでしょうか?

イベルメクチンに限った話ではないのですが、生物活性天然物は全合成をして「はい、終わり」ではありません。

しっかりとその活性評価も見ることで初めて全合成は達成されるのです。

それが創薬研究につながる非常に重要な架け橋であることは言うまでもないでしょう。

 

天然物化学のここがすごい!

「こんなに長ったらしく言ったけど結局は天然物のどこがすごいの???」

聞こえます、そんな声が聞こえますよ。

確かに、天然物化学が有機合成や創薬研究の主役だ!!!とまでは言いません。

がしかし

天然物が有する多種多様な三次元的構造、骨格、分子サイズは無限の可能性を秘めています。

これは有機化学に偏った言い方ですが、生化学生物学においても天然物化学はますます重要な立場になりつつあると思います。

天然物は長い生命の歴史とともに創りだされてものであり、これまで構築されてきた天然物ライブラリーは絶対に過去の遺物にしてはなりません。

最先端の効率的な合成手法や創薬手法に対抗することなく、むしろこの新しい潮流に乗って天然物化学は展開していくでしょう。

そして天然物化学は基礎研究どうしの橋渡しだけでなく、基礎研究臨床研究の橋渡し的存在にもなっていくのではないかと思います。

maiki

つまり天然物化学は無限の可能性を秘めているのです!!!!

ということで今回はこの辺で‥‥

最後までご覧いただきありがとうございます!!

また次の記事でお会いしましょう~~~~

maiki

 

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