カラムクロマトグラフィーのやり方&コツ!展開溶媒/Rf値の考え方

有機化学カラムのやり方

どうも、有機系で博士の学位を頂いたともよしです。

今日は、新しく有機化学系研究室に入った人に向けて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーのやり方・コツをまとめていきたいと思います。

毎年の新入生に「とりあえずこの記事読んでおいて」って紹介するために書いたので、初心者が読むのに丁度いい記事であるはずです。

 

有機化学が、カラムが上手くなりたい人は読んでください。

 

目次

(CMです)
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カラムクロマトグラフィーのやり方、概要

  1. TLCを使って最適なRf値となる展開溶媒を決める★
  2. 最適な太さのカラムを選ぶ★
  3. シリカゲルの充填★
  4. crudeのチャージ★
  5. 試験管等で分取していく★
  6. TLC等で各フラクションを分析する
  7. 欲しい化合物が含まれるフラクションを集め、濃縮する

★マークのあるものはこの記事で丁寧に解説してます。

 

シリカゲルの充填

(Rf値を測定する等、シリカゲルを充填する前にやることは後述。)

まずは、シリカゲルの量を決めましょう。シリカゲルの量を決める手順は以下の通り。

  1. crudeを濃縮する(小さめのフラスコにしてください)
  2. 底にたまっているcrudeの直径と同じか少し太い直径のカラム管を用意する
  3. 高さ15cm(が標準と考えましょう)になるシリカゲルを三角フラスコ等にとり、展開溶媒で懸濁させる
  4. シリカの懸濁液をカラム管に入れ、加圧して溶媒の液面をシリカと合わせる

こんな感じですね。詳しく見ていきましょう(4.は省略)。

 

1.crudeを濃縮する(小さめのフラスコにしてください)

crudeを濃縮するフラスコの大きさは、小さめにしましょう。

crudeを濃縮するフラスコが大きいと、洗い込みに必要な溶媒量が増えてしまい、分離性が悪くなってしまうためです。

洗い込む溶媒量が多いと、チャージしたcrudeが分厚くなり、分厚くなればなるほど分かれにくくなりますよね。

チャージした際、crudeが1~2mmとなるってくらい、薄くチャージするように意識しましょう。薄さを2倍にすれば、分離性が2倍です。

 

2.底にたまっているcrudeの直径と同じか少し太い直径のカラム管を用意する

直上で説明しましたが、チャージしたcrudeが1~2mm前後になるくらいが理想なので、それくらいになりそうな太さのカラム管を選択しましょう。

カラム管が細すぎると、チャージが分厚くなり、分離性が下がります。

カラム管が太すぎると、チャージが不均一になり、シリカ全体を活用できなくなります(溶媒と時間の無駄遣い)。

 

3.高さ15cm(が標準と考えましょう)になるシリカゲルを三角フラスコ等にとり、展開溶媒で懸濁させる

シリカの高さは、15cmが標準と考えましょう。

スポットが近い場合は20とか30cmにしてもいいかもです。目的物のスポット付近に副生成物や共生生物がない場合は10cmくらいでもいいかもです。

シリカのとり方

ぼくの場合は、ドレッシング入れに入っているシリカを三角フラスコに目分量で入れ、懸濁液を絡むに入れる→加圧を数回繰り返して、のぞみの高さに調整します。

少し前は、カラムに乾いたシリカを直接入れて15cm等にして、それを三角フラスコに移して懸濁液を戻す、という方法でした。これもおすすめ。

 

crudeのチャージ

次はチャージですね。マウントって言ったりもしますかね。(ぼくはマウント派なんですけどね。)

チャージのコツを一言でまとめると、“チャージしたcrudeが1~2mmとなるってくらい、薄くチャージする”です。

詳細と、その他細かい意識するところを、手順順で説明していきます。

ヘキサン/酢酸エチルを展開溶媒とする前提で話していきます。

 

crudeが展開溶媒に溶けない場合はクロロホルムを少量入れる

(crudeが展開溶媒に溶ける場合は、この項はスキップしてください)

まず、crudeが展開溶媒に溶けない場合、チャージすることができない、もしくは分離しにくくなるのでクロロホルムを少量入れましょう(目的物がクロロホルムに溶ける場合)(トルエン派もいるよ!)。

クロロホルムが多すぎると、クロロホルムの層に乗っかって早く進んでしまう場合があるので極力少ないクロロホルムでやってください。

 

壁につかないように、crudeをチャージする

壁(フラスコやカラム管)にcrudeが付着するとロスや純度低下の原因になるので、壁につけないようにしてください。

そして、シリカの表面を乱してしまうと分離しにくくなるので、やさしくチャージしましょう。

壁につけないため、シリカ表面を乱さないために、ガスバーナーで長くしたパスツールピペットを使ってチャージするのも一つの手ですね。

チャージしたら(なるべく)重力に任せてcrudeをシリカに吸着させます。

 

最小限量の展開溶媒で洗い込む(多くても2回)

チャージしたcrudeが1~2mmとなるってくらい、薄くチャージする”を意識しながら、最小限量の展開溶媒で洗い込みましょう。

crudeが100mg以下なら、“何滴か”でいけるはずです。

crudeの1%くらいならロスってもいいので、使う展開溶媒は最小限量にしましょう。また、洗い込みの回数は基本1回、多くても2回がいいと思います。

展開溶媒を入れて析出する場合は、クロロホルムを少量入れて溶かしましょう。

その後、(なるべく)重力に任せてcrudeをシリカに吸着させます。

 

お好みで海砂をどうぞ

展開溶媒をカラムに入れていく際にシリカが乱れない目的で、海砂をのせます。

のせる高さは1,2mmくらいでいいんじゃないですかね。

 

分取。フラクションの量は、充填したシリカゲルの体積の半分

チャージが終わったので、展開溶媒を入れて、フラッシュ(加圧)していくわけですが、

試験管等で分取していくフラクション毎の溶媒量は、シリカゲルの体積の半分が標準と考えましょう。

シリカゲルの体積の半分、というのの理由は、分離性と手間や時間のバランスが最適だからです。細かい理由はおいておきます。

というわけで、とりあえず1フラクション目は、次の方法を使ってきっちりシリカゲルの体積の半分にしておきましょう。

 

チャージが終わったらシリカゲルの体積の半分分+ちょいの展開溶媒を入れ、その分分取しておく

これです。そのままです。標準量を1フラクション目で確認しておいてください。

 

Rf値が0.15-0.2になる展開溶媒を使え

展開溶媒流せと言っておきながら、使う展開溶媒をどう決めるかをお話してなかったので、次は展開溶媒の決め方とその理由です。

シリカゲルカラムクロマトグラフィーのやり方・コツでいちばん重要なのは、“Rf値0.15-0.2になる展開溶媒を使え”というところです。

説明していきましょう。

なぜ0.15-0.2がいいか?というのはこちらも、「分離性と手間や時間のバランスが最適だから」って感じです。そのうち分かります。

 

そもそもRf値とは?Rf値0.5とは?

Rf値ってのは、“TLC上を進んだ距離”を“TLCで展開させた距離”で割った数字ですね。

TLCで展開した距離全部分進めばRf値が1。半分進めばRf値が0.5です。

Rf値というとTLC上での話だけだと思われがちですが、これはシリカゲルカラムクロマトグラフィーでも同じ話です。

 

理論上、

TLCでRf値が1の展開溶媒を使った場合、シリカゲルの体積と同じ量の展開溶媒を流したときに、目的物が出てきます。

TLCでRf値が0.5の展開溶媒を使った場合、シリカゲルの体積と同じ量の展開溶媒を流したときに、目的物が1のうち0.5(つまり半分)進みます。つまり、シリカゲルの体積と2倍量(1÷0.52)の展開溶媒を流したときに、目的物が出てきます。

TLCでRf値が0.2の展開溶媒を使った場合、シリカゲルの体積と同じ量の展開溶媒を流したときに、目的物が1のうち0.2進みます。つまり、シリカゲルの体積と5倍量(1÷0.25)の展開溶媒を流したときに、目的物が出てきます。

シリカの「1÷Rf値」倍量の展開溶媒を流したら出てくる。簡単だね!

 

Rf値0.2なら10フラクション目前後で出てくるよ

よって、

TLCでRf値が0.2の展開溶媒を使った場合、シリカゲルの体積の5倍量の展開溶媒を流したときに、目的物が出るので、(シリカゲルの体積の半分ずつフラクションを取っている場合)10フラクション目前後で目的物が出てくるということですね。

以下、初心者はやりすぎ注意ですが…笑

出てくる場所が大体わかっているのなら、さぼれます(そこだけTLCを見ればOK)ですし、

出てくる場所が大体わかっているのなら、そこだけ細かく分取することで高純度を狙うこともできます

“目的物がいつ出るか分かる人”になると強い(速い、疲れない、高純度)です。ぜひ目指してください。

 

カラムで“目的物がいつ出るか分かる人”になるために

“目的物がいつ出るか分かる人”を目指してやれることを挙げておきます。大丈夫です、早ければ数ヶ月で結構分かってきます。

 

事前にRf値0.15-0.2になる展開溶媒を見つけておく

これは必ずやってください。

「ヘキサク10:1(ヘキサン/酢酸エチル=10:1)でRf値0.5だったから、まあ20:1くらいでいいかな」なんてことはやらないでください。

 

Rf値と出てきたフラクション数を実験ノートに全部書く

有機化学カラムのやり方

これは未だにぼくもやってます。

“目的物がいつ出るか分かる”というのは突き詰めると、“Rf値どれだけの展開溶媒でどれだけ流したら出てきた”という情報の積み重ねです。

  • 使った展開溶媒とそのRf値
  • 流し始めたフラクション数
  • 出てきたフラクション数

以上をメモしておくようにしてください。「Rf値どれくらいだと、何フラクション目に出るんだな」ってだんだん分かってきます(分取するフラクションの量は、シリカの体積の半分でなるべく固定)。

同じ化合物を再合成するときなんかは、このメモを見れば「この溶媒でこれくらいで出るのか」とか「もっと極性高くしても大丈夫だな」とか考えれるので圧倒的な時間短縮が見込めます。

 

展開溶媒の候補(溶媒を変えれば分けられるようになる!)

よく使われる展開溶媒を挙げておきますね。

  • ヘキサン/酢酸エチル(※)
  • ヘキサン/トルエン(※より極性低い)
  • ヘキサン/ジエチルエーテル(※より極性ちょっと低い)
  • トルエン/アセトン
  • クロロホルム/メタノール

とかですかね。

ファーストチョイスはヘキサン/酢酸エチルですが、扱う化合物の溶解性や極性によって最適溶媒は異なります。

 

また、「ヘキサン/酢酸エチルだと、2成分が同Rf値で分離できないけど、トルエン/アセトンだとスポットが分かれる!(Rf値がずれる)」なんてこともよくあります。

TLCでスポットが重なった場合(かなり近い場合)でも、諦めないでください。

用いる溶媒を変更することで、分離困難→精製可能となることが全然あるので、根気よく色んな展開溶媒でTLCでのテストをしてみてください。

 

グラジエントのススメ(展開溶媒の極性を変えていこう)

グラジエント、それは展開溶媒の極性を徐々に上げていくことである。

ということで、最後にグラジエントのススメです。

入門編より上かもしれないので、マジな初心者の人は読まなくてもOKです。

簡単にお話しておきます。

 

各化合物を高純度でスピーディに分けていく

カラムが上手いというのは、突き詰めると“各化合物を高純度でスピーディに分けていく”ということです。

共生生物1をスパッとわけて、副生成物2をサクッととって、目的物をキランと単離して、副生成物をシャキーンと得る。これをいかに早く高純度にやるか。そういうことです。

(副生成物の構造決めて考察してLet’s収率上げましょう)

これをやるためにはグラジエントが効果的です。

 

各化合物に合った極性の展開溶媒でそれぞれをスパスパスパっと分けていく、という感覚

↑これをやるために、各化合物のRf値が0.15-0.2くらいになる展開溶媒で、各化合物を順々に排出していきます(さすがに全部のRf値0.2を探していたら大変なのである程度さぼる)。

まだなっていないとは思いますが、“目的物がいつ出るか分かる人”になったあなたなら、TLCで確認せずとも強気で極性を上げていけます。(「そろそろ共生生物出るから、次は副生成物1を出すための極性に変えよう」みたいな判断)

 

ちょっとむずかしいかもしれないのでそろそろ止めます。

 

まとめ:カラムのやり方

いかがでしたでしょうか。

みなさんのカラム技術が大きく向上することを祈っています。

カラムが上手くなれば、純度が高くなることから研究が進みやすくなったり、単純に時間短縮されたり、もっとたくさん実験できたり、他のことに時間を使えるようになります。

幸せな人生を送ってください。

この記事で挙げたことを意識して、日々のカラムをがんばってみてください。

 

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楽しみに待ってます!

 

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1 個のコメント

  • “シリカの「1÷Rf値」倍量の展開溶媒を流したら出てくる。簡単だね!”

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