なぜ「土木工学」は英語で「Civil Engineering」と書くのか?-土木工学について解説-

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tsuyoshi

工学研究科修士卒の在野研究者です。大学院では"力"に着目した細胞の実験をしていました。最近数理にも興味を持ち始めました。理科教育やサイエンスコミュニケーションの活動も積極的にやっていきたいと思っています!!
tsuyoshi
突然だけど、「機械工学」や「化学工学」って英語ってなんて言うか知ってる?
機械工学はMechanical Engineering、化学工学はChemical Engineering!
tsuyoshi
正解!じゃあ、「土木工学」はどう訳すか分かるかな?
○○Engineeringなんだろうけど、○○の中が思いつかないな⋯
tsuyoshi
正解は “Civil Engineering” なんだ
なんで土木の英訳がCivil(=市民)なの?
tsuyoshi
文字通りの意味さ。土木工学は市民のための学問なんだ

 

どうも、tsuyoshiです。今回は、知ってそうで意外と知らない土木工学についての記事になります。

おそらく、土木工学の英訳が “Civil Engineering” であることを知っている人はあまりいないと思います。

このように英訳する理由としては土木工学が文字通り「市民のための工学」だからです。

なぜそのように言うことができるのでしょうか? 土木工学という学問の内容を見ていきながら考えていきましょう!

 

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土木工学の英訳は「市民のための工学」

そもそも、みなさんは “土木” という言葉を聞くと、どのようなことをイメージするでしょうか?

生活に身近な例ですと、道路や水道の工事をイメージする人は多いのではないでしょうか。また、堤防やダムの建設工事をイメージする人も少なくないと思います。

これらに共通しているのは、私たちの生活の基盤を支えているということです。

 

土木工学の英訳がCivil Engineeringであることは冒頭で述べました。この、Civilという単語は「市民、文明」を指しています。

すなわち、土木工学とは、 ❝「市民のための工学」あるいは「市民の文明的な暮らしのために、人間らしい環境を整えていく仕事」(引用:土木学会HP)❞ であるということができます。

 

先程挙げた例は確かに、私たちの文明社会の基盤を支えていますし、道路や水道がない状態で日本における文明的な暮らしを送ることは困難だろうということは、容易に想像がつくと思います。

具体的には、次の3つの目的があります。

  1. 安全性の確保
  2. 快適性の向上
  3. 利便性の向上

(引用:芝浦工業大学土木工学科マテリアルデザイン研究室オープンキャンパス2011pdf)

それぞれの目的でどのようなことが行われているか、身近な例から考えてみましょう!

 

市民の生活を安全に

台風などの災害で崩落してしまった道路などを見ると改めて思いますが、生活の前提になっている安全性というのはとても大事だなと思います。

道路を安全に走行できることや水道水を安全に飲めることは、私たちの生活の安全性を保つ上で非常に重要なことです。

例えば、道路が割れていたり、道路に木が倒れているような状態で安全に通行をすることができますか? あるいは、水道水が濁っているような状態でその水を飲むことができるでしょうか?

 

答えはNOでしょう。

このような状況は災害時ではありえますが、逆に言えば災害のような非日常状態でないと起こっていない、あるいは起こっても迅速に解決できているということができます。

他にも、河川の堤防なども私たちの生活を安全にしていると言えます。普段の雨で毎回河川が氾濫していては安全に生活などできませんよね。

 

市民の生活を快適に

私たちの生活の中には、”安全面では困らない、でもないと不便だな” と感じるものが数多くあります。

土木の中で快適に保つことが求められている例として、地域の公園や公衆トイレが挙げられるでしょう。

確かに、地域の公園はなくても生活上困ることは少ないと思います。しかし、子どもたちや市民が運動を行うことができる場や、地域住民の寄り合いの場になっており、無いとストレスであるということも確かです。

また、日本では駅のホームや街中に当たり前のように各地に公衆トイレがありますが、これもないと不便でありストレスになります。海外旅行でヨーロッパなどに行ってトイレで苦労したことのある人とかだと、普段トイレが当たり前のようにある便利さやありがたみが特によく分かると思います(笑)

 

市民の生活をより便利に

鉄道や高速道路がイメージしやすいと思います。

鉄道や高速道路は物資や人の移動において大きな役割を果たしており、私たちの生活に欠かせないものです。

鉄道や高速道路が無ければ、いわゆる下道を行くことになり、それでは不便だなと思うこともある人は多いでしょう。

家の近くに電車の駅が出来て便利になったという人や高速道路が出来て便利になったという人は、鉄道や高速道路がもたらす便利さがより実感できると思います。

 

このように、土木は私たちの安全で、快適で、便利な生活を支えています。

土木は私たちの文明的な生活の基盤を作っている

 

土木という分野の幅広さ

一口に土木と言っても、その幅はとても広いです。

例えば道路や鉄道、橋や河川の堤防をつくることを考えるようとしたときに、使う材料や地盤のことを考えて頑丈な構造物を設計する必要があります。また、これらをつくるときには、それを作ることで街がどう変わるのかといったことや周囲の自然環境に与える影響を考える必要があります。

このように土木は様々な視点から考える必要があり、そのため土木という分野は非常に幅広いものになっています。

学問的な分類をすると、土木工学は大きく、「地盤工学」「構造工学」「水工学」「都市計画学」という4つの分野に分けることができます。

図 土木工学の分野

(引用:京都大学工学部地球工学科国際コースHP

 

①構造工学

橋や道路といった構造物を実際に作るための学問です。

これらの構造物を実際に作るためには様々な知識が必要になります。

例えば、構造物の材料がどのような力にどれくらいの期間耐えることができるのかといったことや、どのように構造物を設計すれば1点に力が集中しないかなどを考えます。

また、どのように材料を組み合わせれば災害による衝撃を軽減し崩れにくくできるのかという災害においても土木を維持する方策について扱います。

(工学の別分野の材料力学と扱う内容は似ています。厳密には材料力学が1つの物体の変形を扱うのに対し、構造力学では構造物全体を扱うという点で異なります。)

 

②水工学

水工学は、河川や海における水の流れを扱う分野です。

土木の大きな役割の1つに、治水が挙げられます。

水の流れが橋の橋脚にどのような力を与えているのかといったことや、川の流れによってどのように土砂が運搬されていくのかということを扱っています。

また、水の流れに対する知見を活かして、津波や洪水などの水害への対策や、川や海の付近における生態系の保全についても扱っています。

(物理学的には流体力学を基盤とした分野です。)

 

③地盤工学

様々な建造物の土台となる、地盤について扱う分野です。

地盤の中でどのような力が起こっており、それが建物にどのような影響を及ぼすのかといったことや、それをシミュレーションができるようにモデル化するといったことを行っています。

また、地盤と建造物の相互作用や、地下水の流れといった地盤内での環境についても扱います。

他にも、地震が起こった時の地盤への振動の影響を研究することで、地震災害を少しでも軽減しようという取り組みがされています。

 

④都市計画学

未来に向けて持続可能な国や地域、街づくりをすることを目的とした学問です。

街づくりには本当にいろいろな要素が絡んでいます。そこには環境や社会、経済といったものが含まれています。

これらに工学という枠組みだけで向き合うことは不可能であるため、経済学や社会学、心理学といった人文系学問の知見を活かしながら、未来につなぐことのできる街づくりを目指します。

都市計画学だけ、”○○工学” という呼び方をしていませんし、内容的にも工学的ではない印象を受けるでしょう。

都市計画学は土木の中でも社会全体を扱う分野であることがここからも伺うことができると思います。

 

土木工学は土木を力学的な視点をメインにして考える分野であるということができます。しかし、土木全体は力学的な視点以外も必要不可欠です。

土木という分野は、工学という枠組みだけには収まらない非常に幅の広い分野です。

土木は工学以外の領域も絡み合った複雑な分野

(参考:京都大学工学部地球工学科国際コースホームページ)

 

建築は土木という基盤の上に成り立つ

建造物によって市民の生活を安全で、快適で、便利にする学問として、建築が思い浮かぶ人もいるのではないでしょうか? 特に住宅は私たちの生活に欠かせません。

確かに、土木も建築も街づくりに関わる分野であり、私たちの生活に必要不可欠な学問です。

土木と建築の違いとしては、 “使う人が変わっても不変の必要性があるか” ということです。

例えば、建築の分野で作られる住宅ですと、そこに住む人が変われば住宅が建て替えられるということは珍しくありません。また、街中の店舗が変わる時には改装工事をすることがほとんどでしょう。

このように、建築によって作られる住宅や店舗は、そこに住む人や利用する人によって何をどう作るかが変わってきます。つまり、使う人が変わると必要なものが変わるという訳です。

 

一方で、土木で扱うような道路や鉄道、堤防や水道などは、そこに住む人が変わっても変わらずに必要です。

そのため、土木においては今現在の街の建物だけでなく、社会全体でのヒトやモノの流れといった大きな空間的な視点と、未来に向けて持続可能な街をつくるという長期的な時間的な視点を持つことが必要になります。

土木によって街の基盤をつくり、その上で建築によって自分たちに適切な街をつくっているということができるでしょう。

土木が街の基盤を作り、建築が個人の生活を彩る

 

土木工学は私たちの生活と切り離せない学問

土木工学は、私たちの文明を支えている、とても大切な学問です。

確かに、土木は目に見えるように0から1の価値を生み出したり、-から+に転じて価値を生み出すことは少ないため、インパクトが薄いと感じる人も少なくないのかもしれません。

しかし、当たり前と思っている±0の “通常状態” の価値を維持するのが土木という分野です。

土木という “当たり前” を保つための営みの素晴らしさを知って損することは絶対にありません。

読者のみなさんもCivilの一部です。自分たちのための工学である土木を、少しだけ自分事として考えてみませんか?

 

参考リンク:公益社団法人土木学会ホームページ

参考リンク:芝浦工業大学土木工学科マテリアルデザイン研究室オープンキャンパス2011pdf

 

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コラム:土木をもっと知るために!

土木カフェやNPOツナガルドボク中国など、土木の魅力を発信する取り組みも広がってきています。

土木に興味を持った方は、イベント等に足を運んで生の声や魅力を聞いてみるのもいいと思います!

ちなみに11月18日は「土木の日」です。それに合わせて土木学会が主催で一般向けのイベントが行われるみたいですので、そちらに出向いてみてもいいのではないのでしょうか?

参考リンク:土木の日とは?土木学会

参考リンク:NPOツナガルドボク中国

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1 個のコメント

  • A word ‘Civil engineering’ caught my attention while watching a streamed video clip of Sir Tom Moor who passed away at the age of 100 due to Covid-19 with his spirit greatly honoured by British nation. He served civil engineering after grammar school before entering army at the beginning of WWII. He was an inspiration and became a hero for the people under severe lockdowns there. There is such a real civil engineering in its tru sense of the word. Thanks for the nice presentation in Japanese way of the engineering works.

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