再生医療の実現と課題―皮膚・骨・細胞の再生医療概論と倫理―

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きりさめ

修士卒会社員【専門】生化学、生命科学【趣味】映画、読書【一言】レオパードゲッコーの男の子と住んでます。

突然ですが、あなたはどんな風に生きたいですか。「好きな仕事をし続ける」でも「バランス良く生きる」にしても、健康でいるに越したことはありません。
老化や大きなけがや病気で臓器が機能しなくなると、「生活」自体のハードルが上がりますし、健康上の問題を苦に自殺する人は一番多いとされています。(厚生労働省発表資料(H.29)

医療の可能性が広がれば、幸福の可能性も広がると思いませんか。

本記事では医療の可能性を大きく広げる再生医療と、医療従事者から見た実現可能性などについて向き合います。

 

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①「有機化合物の分離/精製 基礎から上級テクニックまで @ 異分野融合Bar」
②「有機化学Bar 〜有機分子の構造決定をしてみよう!〜」


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そもそも再生医療ってなに?

再生医療ということばをよく耳にしますが、従来の医療とは何が違うのでしょうか?

 

臓器や組織を交換する医療

再生医療とは、失われた人体機能の回復を目指す医療です。ひとの臓器や組織そのものが失われたとき、機能しなくなってしまったときに、幹細胞などを用いてそれらの臓器や組織を再生し、治療を行います。

車に例えると今までの医薬品による治療は、油をさしたり錆をとることで、臓器、組織、細胞の働きを抑えたり改善するものでした。しかし、これらではすり減ったタイヤ、割れたガラスやミラーなどの壊れたパーツ自体を直すことができません。

車の場合は、壊れた部品を新しいものに交換すればOKですが、人体の臓器(部品)を新しいものに交換する治療は、これまでの医療では困難なものでした。この臓器の交換を可能とするのが再生医療になります。

 

移植じゃダメなの?

「臓器を交換する」というと、すぐに思い浮かべるのが臓器移植や骨髄移植です。テレビドラマでは「移植が成功しました」で終わりますが、移植手術が成功したあとも患者さんの戦いは続きます。

移植の最大の欠点は拒絶反応です。他の人からもらった臓器は移植された側にとっては、「異物」です。そのため人体は異物に対し、免疫機能による攻撃を始めます。この免疫反応を抑えるために、免疫抑制剤を生涯飲み続けなければなりません。

しかし免疫力を抑えるということは、感染症にかかりやすくなるということです。高齢者などでは敗血症のリスクも高まります。

 

拒絶反応を極力抑える再生医療

再生医療の可能性を変化させたのがiPS細胞です。iPS細胞は山中伸弥教授のノーベル生理学賞受賞により一躍有名になりました。iPS細胞は、さまざまな器官・細胞へ分化できる多能性があります。また、同時にほぼ無限に増殖する能力も持つため、再生医療の期待の星なのです。

完全に拒絶がない治療方法のひとつに、皮膚や骨の再生医療があります。これば、皮膚や骨が欠損した部位に人工物を補てんし、自らの細胞と置換させる方法です。こちらはすでに臨床応用が始まっています。

自分の細胞からの作成が難しい細胞の場合は、あらかじめ作成しておいたものから最も適合がよいものを選択する方法が研究されています。

「細胞シート」をご存知でしょうか。細胞シートとはヒトの細胞を採取し、シート状に培養して作製した薄い膜です。これを患部に貼ることで細胞や臓器の再生を図ることができます。数十種類の遺伝子を持つ細胞シートを作り、もっとも免疫反応が起こりにくそうな遺伝子型を持った細胞シートを移植するという方法が現段階の戦略です。

このiPS細胞技術によって臓器を作製できれば、完全に拒絶反応のない医療が達成できますが2019年現在は実現できていません。

 

再生医療と幹細胞の種類

再生医療と切っても切れないのが「幹細胞」です。「幹細胞」とひとくちに言っても、体性幹細胞iPS細胞(induced pluripotent stem cell)、ES細胞(embryonic stem cells)という3種類の細胞があります。これらの細胞のちがいについて簡潔に説明します。詳細はtsuyoshiさんの記事「加速する再生医療!再生医療で用いられる “幹細胞” とは?」を御覧ください。

 

ES細胞

ES細胞」というのは、動物(ヒトを含む)の受精卵が「胚盤胞」になったときに取り出し、培養できるようにした細胞です。ES細胞は血液、筋肉、神経など、さまざまな種類の細胞になることができます。「万能細胞」と言われる理由もここにあります。

 

iPS細胞

iPS細胞は人工の幹細胞です。こちらもES細胞と同様に万能細胞といわれ、何にでもなることができます。では、ES細胞とどうちがうのでしょうか?

iPS細胞は、すでに分化した細胞について時間を巻き戻して作製します。この「細胞の初期化」をリプログラミングと言います。皮膚などの体細胞に①多能性誘導因子を導入し②培養すると③様々な組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもつ多能性幹細胞に変化します。 この細胞をiPS細胞(=人工多能性幹細胞)と呼びます。

 

体性幹細胞

体性幹細胞」とは、生きもののさまざまな組織にある幹細胞のことです。「造血幹細胞」・「神経幹細胞」・「皮膚幹細胞」などの種類があります。たとえば、「造血幹細胞」は赤血球・白血球・血小板に成長します。他の幹細胞に比べて広義な用語です。

 

実施されている再生医療

PMDAのページに再生医療提供機関一覧に再生医療を実施している病院があるのでよかったら確認してみてください。

「ヒトの再生能力をサポートする」形で成立する、皮膚と骨の再生医療は免疫上の問題や倫理面での問題をクリアしているため実用化されています。

 

皮膚の再生医療

擦り傷や切り傷をしても数日もすれば治っていくはずですが、大やけどを負ってしまうと皮膚の再生にはとても長い時間がかかってしまいます。糖尿病性潰瘍が治癒しなかった場合、手足の切断手術を行わざるを得ないことも多くあります。

皮膚には「外界の刺激からの保護」「体液の保持・調節」「知覚の伝達」をはじめさまざまな機能があります。皮膚は大別すると2つの構造に分けられます。
1)表皮
2)真皮

そしてこの下に広がるのが皮下組織です。表皮の欠損で毛包が残存する場合は表皮幹細胞が増殖・分化し創傷は治癒していきますが全面的に失っている場合は回復に時間がかかります。その間、皮膚で守られていたはずの組織はむき出しになるため感染症のリスクも高まります。

そんなときに役に立つのが人工皮膚です。実は、皮膚の再生医療は1990年代から行われています([1],[2])。人工皮膚の主成分はウシ・ブタ・クラゲなどのコラーゲンです。真皮が再生する際に細胞の足場として機能し、疑似真皮が再生します。

 

骨の再生医療

白骨体、ミイラなどから骨は「ずっと変わらないもの」というイメージがありませんか?実は、骨も破壊と再生を繰り返しています。

骨には以下の3種類の細胞があります。
1.破骨細胞
2.骨芽細胞
3.骨細胞

破骨細胞が古い骨を壊し、骨芽細胞が成長して骨細胞となることで新たな骨が形成されます。これをリモデリングと言います。

人工骨の材料としては、ハイドロキシアパタイトやβTCP、リン酸カルシウムセメント、硫酸カルシウムなどがあります。製品によっては、補てんした人工骨が自家骨と置換し半年程度で自らの骨になります。

 

再生医療の課題ー倫理と産業化ー

命ってなんだろう?

ES細胞は、将来が定まっておらず、あらゆる可能性を秘めた細胞だと言えるでしょう。人間に例えるならば「赤ちゃん」だといえます。実際にES細胞にはヒトの精子と卵子を体外受精させた卵が元となるため子宮に入れれば本当に「赤ちゃん」になる可能性があります。つまり、「ES細胞をつくる」ということは「受精卵を壊す」といっても過言ではありません。

そのため、ES細胞を用いた研究や再生医療は、倫理的に大きな問題を抱えています。

日本では平成16年度に当時の内閣総理大臣 小泉純一郎氏が議長となった「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方(16府政科技第587号)」で「ヒトの胚=人の生命の萌芽」であるとしており、ES細胞の作製には、受精から14日間以内の胚を用いることになっています。

ヒト受精胚は、「人」そのものではないとしても、「人の 尊厳」という社会の基本的価値の維持のために特に尊重されるべき存 在であり、かかる意味で「人の生命の萌芽」として位置付けられるべきものと考えられる。

一方、ローマ・カトリック教会では命の定義を「受精した瞬間」としています。つまり、ローマ・カトリック教会の視点にたてば日本におけるES細胞の作製は1人の人間が実験に使われていることと同義なのです。

 

自分が知らないうちに子どもが生まれてしまう?

iPS細胞の登場で胚細胞(受精卵)を使用するという倫理問題は解決されました。ですが、新たな倫理問題も話題に上がっています。

細胞提供者が自分の知らないところで子供が作られている可能性や、「死んだ人からでさえ膚細胞を保存することで子供が産めるという可能性」さえ指摘されている。まさに「何でもあり」の世界が出現しかねないのである。

iPS細胞と生命倫理]より

これから私たちは、科学技術の発展とともにさまざまな問題に直面するでしょう。「神の領域」だとされていたことも技術的には叶えられるようになりますが、「どこからが命なのか」「どこまでが自分の権利なのか」など、考えなければならない問題も山積しています。

再生医療の産業化

再生医療が発展するためには何らかの方法で研究資金を獲得し続けることが必要です。基礎研究と同様に非常に意義深いものであっても、採算のとれない事業もあります。今後の課題として、研究が継続的に進められるような環境づくりが必要不可欠でしょう。

再生医療の商談の場として、こうしたイベントもあります。
※商談のための展示会なので学生や18歳未満の方は入ることができません。

第1回 再生医療 産業化展 
【会期】2019年7月3日(水)~5日(金)
    10:00~18:00(最終日のみ17時まで)
【会場】東京ビッグサイト(青海 展示棟)

https://www.regenmed-t.jp/ja-jp.html

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医療と幸福の可能性

平均寿命が大きく延びた一方で、老化が原因で引き起こされる慢性疾患も増えています。再生医療は、今はまだ治療法が確立されていない病や、すでにある医薬品での治療が難しい病に対して新たな治療法となる可能性がある希望の光なのです。

また、iPS細胞はまださまざまな課題を抱えてはいるものの、iPS細胞化した体細胞から精子と卵子を作製することで同性のカップルでも子供をもつことが可能になります。

再生医療はテクノロジーの進歩だけでなく「自分はどう生きたいのか」「いのちとは何か」といった倫理や哲学と深く紐づいています。
インターネットが発達した現在、さまざまな考え方に触れることができる世界に生きる私たちは、何を指針にし、何を信じれば良いのでしょうか。すぐには答えが出ないとしても、一人ひとりが考え続けることが大切です。

本記事が一つのきっかけとなれば幸いです。ご意見、ご感想はTwitterまでよろしくお願い致します。

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