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プロテインノックダウン法(Protein knockdown)とは、その名の通り、生体内にある特定のタンパク質を分解し、その機能をOFFにするという、近年注目されている新しい創薬技術です。プロテインデグラデーション(Protein degradation)とも呼ばれます。
現在、主流の医薬品は、タンパク質に一つの化合物が結合することで、その機能を阻害します。この形式のタンパク機能阻害は、競合阻害剤を呼ばれ、標的タンパク質に結合している時だけ、その機能を抑制することが困難です。
生体内で医薬品化合物は標的となるタンパク質に、結合したり解離したりしています。
そして、次第に代謝されてしまい、薬の効果が薄れ、タンパク質の機能が復活します。
つまり、一般的な”薬”は、常に効いているわけではないのです。
話を戻しまして…
そう、従来型の創薬では、標的受容体などのタンパク質の機能を抑制するだけのものでした。
しかし!
最近は、原因となる受容体などのタンパク質そのものを、減らしてしまう技術が注目を集めています!しかも、その作用は、「触媒的」であり、少量で活性を示すことができます。
この記事で軽く解説していくので、どうぞ読んでいってください!
今回参考にさせていただいた文献は、
- プロテインノックダウン法による新しい創薬技術の開発に関する研究 大岡伸通
- 新しい低分子薬の創薬モダリティPROTAC
- Protac-Induced Protein Degradation in Drug Discovery: Breaking the Rules or Just Making New Ones?
です!
1の文献は非常によくまとまっているので、日本薬学会のIDをお持ちの方は、ぜひ読んでみてください!
目次
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プロテインノックダウン法(Protein Knockdown)とは??
プロテインノックダウン法は、ユビキチンプロテアソーム系をベースに開発された創薬技術です。始まりは2001年にイエール大学のCrews先生によって開発されましたPROTACになります。(論文:https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.141230798)
現在主流のプロテインノックダウン法のカテゴリーとしては、PROTAC法、SNIPER法、Degronimid法があります。
これらの詳細は、本記事の下の方で紹介させていただきますが、原理からみると、これらの技術に大きな差はありません。
ユビキチンプロテアソームシステムを原理としたタンパク質の分解
生命が活動を維持するにあたって、不要となるタンパク質が生じてきます。
では、生体はそれらの”不要物”をどのようにして分解・処分しているのでしょうか?
その活動を担っているのが、ユビキチンプロテアソーム系です。
いい動画が2つほどあったので、紹介しておきます!
動画を見ていただくとわかるのですが、ユビキチンとは、餌のようなものです。
不要となったタンパク質に、E1~E3の酵素がユビキチンを結合させることで、「このタンパク質は不要物です」と標識します。
このユビキチン化されたタンパク質を、タンパク質分解酵素である”プロテアソーム”が分解します!
今回解説していくプロテインノックダウン技術は、このシステムを応用したものとなります。
プロテインノックダウン法の種類(SNIPER、PROTAC、Degronimid)と原理
上でも述べましたが、本技術はプロテインノックダウン法(Protein knockdown)や、プロテインデグラデーション(Protein degradation)と呼ばれます。3つの分類が報告され、それは、PROTAC、SNIPER、Degronimidです。
プロテインノックダウンの基本的な原理
プロテインノックダウン法の原理を簡単に述べると、医薬品等が”標的としているタンパク質のもとに、ユビキチンリガーゼ(E3)を引き寄せる”というものです。呼び寄せたユビキチンリガーゼにより、標的タンパク質のユビキチン化を促進し、プロテアソームの分解を誘導します。
Protein Knockdownに用いられる化合物は、PROTAC、SNIPER、Degronimidに分類され、下の図に示した「AーB」分子に対応します。
いずれも、分解標的であるタンパク質と結合する部分Aとユビキチン化を行うE3酵素と結合する部分Bを持ちます。
A部分に、既存の医薬品誘導体などが導入することで、標的とするタンパク質を選択します。
PROTAC、SNIPER、Degronimidすなわち「AーB」は、この2つのタンパク質を接近させる役割を担います。そして接近させることで、効率的にユビキチン化が行われます。ユビキチン化されたタンパク質は、プロテアソームにより分解を受け、機能を失います。
以上が、SNIPER、PROTAC、Degronimidに共通した基本的メカニズムとなります。
続いて、それぞれの違いを紹介していきます。その違いは、B部分にあります。
PROTAC(プロタック)
2001年に、C. M. Crewsらが開発した分子技術です(PNAS 2001)。PROTACの正式名称は proteolysis targeting chimera であり、日本語の意味は、タンパク質分解誘導キメラタンパク質となります。
PROTACのB部分(E3リガーゼリガンド)に主としてE3リガーゼファミリーのVHL: von Hippel-Lindauと結合するペプチドやそれからデザインされた低分子が導入されています。また、E3リガーゼファミリーCRBN: celebron と結合するサリドマイトおよびその誘導体も含まれます。
SNIPER(スナイパー)
SNIPERとは、Specific and Nongenetic Inhibitor of Apoptosis Protein (IAP) dependent Protein Eraser の略称です。内藤先生らにより2008年にメチルベスタチン(methyl-bestatin; MeBS)が IAPファミリータンパク質の cellular inhibitor of apoptosis protein 1(cIAP1)の発現を特異的に減少 させることを発見した(JBC 2008)ことを受け、2010年(JACS 2010)に開発された技術です。
B部分(IAPリガンド)には、E3リガーゼファミリーのIAP:cellular inhibitor of apoptosis protein と結合する構造が導入されています。
A部分としては、例えば、エストロゲンレセプター(ER)に結合するもの、白血病因子BCR/ABLに結合するものなどがあります。ERの分解は女性特有の癌治療が、BCR/ABLチロシンキナーゼの阻害は慢性骨髄性白血病の治療が期待されます。
A部分は、EGFR、BCR/ABL、HER2、BRD4 などに結合する化合物が導入されています。これらの標的タンパク質もがん関連タンパクであることから、これらの因子が癌原となる疾患治療候補化合物として期待されます。
Degronimid(デグロニミド)
James Bradner博士らが開発した技術です。
B部分には、E3リガーゼファミリーCRBN: celebron と結合するサリドマイド誘導体などが導入されています。中にはPROTACと同様のVHLと結合するものも、分類されています。
A部分は、BTK、FLT3、CDK9、BRD9 などに結合する化合物が導入されています。これらも同様に癌関連タンパク質です。
特にA部分については簡潔になってしまいましたが、このような違いがあります。
PROTAC、SNIPER、Degronimidの違い
この3つの名前が知られますが、3つの研究グループが割と近い時期にこれらの技術開発を行ったことから、これらの名前があります。最近は基本的にPROTACまたは、SNIPERの2つに分類されています。
Degronimideは、開発元(命名)が異なるだけであり結局PROTACと同様の技術としてまとめられているように感じます。一方、SNIPERはIAPを用いるものを指しており、IAPの分解も引き起こすことから、CRBN、VHLをリクルートするPROTACからは別分類されています。
(CMです)
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まとめ
今回は簡潔に大まかなくくりを紹介させていただきました!
プロテインノックダウン法は、従来型のタンパクを1対1で阻害する技術とは異なり、触媒的に1対多の比率でタンパク質の分解を誘導します。
タンパク質自体の量を減らすことができるので、強い効果が得られるかもしれませんね。
また、A部分に導入する医薬品によって、分解する標的タンパク質を変えることができるので、治療の対象となる疾患を広げ易いことが特徴です。可能性を秘める優れた技術だと思います!夢が膨らみますね!
書いていてふと思ったのですが、タンパクをOFFしていますので、もしかしたら副作用も重篤なものが出てしまうのかもしれませんね。触媒的に分解していくので、投与量は少なく済みそうなのでGoodですが…(投与量が少なければ、分解物なとが引き起こす副作用も減少します)
今後生まれてくるProtein Knockdown医薬品に注目です!
最後まで読んでいただきありがとうございました!
医薬品の体内での動き・消失について書いた記事がありますので、よかったら読んでいってください!
服用した医薬品が体内から消えるまで