メディカルライターが教える論文の読み方② 初心者はどんな論文から読めばいいの?

こんにちは、フリーランスのメディカルライターをしているワイルド研室長です。

前回は、英語の論文をまだ読みなれていない人向けに、どうやって論文読解に必要な英語力をつけていけばいいか解説しました。

前回の記事→英語の論文にビビらないために

ですが、研究を始めたばかりの人は、「そもそもどの論文から読めばいいのかわからない」というのが正直なところではないでしょうか。

そこで今回は、「どんな論文から優先的に読んでいけばいいのか」をテーマに、記事を書いてみようと思います。

 

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論文にはどんなタイプがあるの?

一口に論文といっても、色々なタイプがあります。

まずは、そこを理解するところから始めましょう。

医学・生物学分野で出会うことの多い論文のタイプを表にまとめました。

細かく分ければいくらでも細分化できるのですが、大まかには次のような理解で大丈夫だと思います。

論文のタイプ

内容

原著論文

基礎研究

動物実験や試験管内で行った実験結果を報告するもの。「生命の不思議を解き明かす」系のものから、「病気の治療薬の候補を見つけました」系のものまで様々。

臨床研究

人間を対象に行われる研究。数10人規模のものから、大規模なものだと1万人以上を対象としたものまで。実際に患者さんに薬を投与するような試験もあれば、アンケート調査による疫学研究など方法は多様。

総説(review)

特定の分野について、過去の研究をまとめたもの。基本的には新たな研究結果が書かれていることはないが、研究分野について網羅的に知識を得るために有用。

システマティック・レビュー

(メタアナリシス)

過去の研究論文を網羅的に調べて、仮説を検証する研究手法。複数の研究で得られたデータを統合して解析することを「メタアナリシス」という。今日の医療では、この結果に基づいて標準的な治療法が決定されていることも多い。「総説」とは違うことに注意。

症例報告

医師が日々の診療で出会った症例(患者さん)について記録したもの。症状や検査結果、実施した治療の効果などが事細かに書いてある。歯科医師や獣医師が書いたものも存在する。

その他

研究分野の将来の展望についての記事や、エッセイなど。

 

原著論文

これがいわゆる「普通の論文」で、実験や観察をして集めたデータを報告する形式のものです。

原著論文には、基礎研究と臨床研究のものがあると理解しておくといいと思います。

たとえば、ある薬に関する知識を得たい場合でも、患者さんに投与した時の効果について知りたいのか、それとも細胞レベルでの作用メカニズムを知りたいのかによって、読むべき論文が違うからです。

最近は研究成果を少しでも「医療応用につなげよう」という風潮がありますので、「基礎研究一筋」という人でも、臨床研究についても少し知っておくといいかもしれません。

 

総説

要するに「これまでの研究のまとめ」です。

英語でreview(レビュー)と言います。

複雑な研究の全体像を理解するために非常に役に立ちますが、著者のライティング能力によって、読みやすさにかなりばらつきがある印象です。

個人的には、原著論文をある程度読みこなせるようになってから挑戦することをオススメします。

 

システマティック・レビュー

少しまぎらわしいのですが、総説(レビュー)とは異なります。

これは、調べたい仮説に基づいて網羅的に文献を集めて、仮説が正しいかどうか調べる研究手法です。

たとえば、糖尿病に対して薬Aが本当に効果を持っているのか調べるために、「糖尿病」&「薬A」という検索キーワードでヒットした文献を、総合的に評価するというようなことをします。

これから臨床研究をしようという人は、論文を読むのに慣れてきたら、いくつか読んでみてもいいかもしれません。

 

症例報告・その他

症例報告など、そのほかにも論文のタイプはありますが、少しマニアックなので、初心者がまず手を出すタイプのものではないと思います。

ただし、珍しい病気を研究していて、大規模な臨床研究がない場合などは、症例報告から情報をかき集める作業が必要になることもあります。

 

まずは原著論文を読もう

では、初心者はどのタイプの論文から読んでいけばいいでしょうか?

個人的な意見にはなりますが、まずは「原著論文」から読んでいくべきだと思います。

なぜなら、原著論文には具体的な研究のプロセスが書かれているため、それを書いた研究者たちが実際に何をしたのかイメージしながら読むことができるからです。

自分の研究と照らし合わせながら読むことで、より具体的なイメージを持つこともできるのではないでしょうか。

「総説をまず読んだ方がいい」とアドバイスする人もいるかもしれませんが、個人的にはあまりいい思い出がありません。

書いてあることが抽象的すぎるし、ものによってはただ過去の研究が列挙されているだけだったり、研究のメインストリームとあまり関係のない部分まで書いてあったりして、退屈だった記憶があります。

総説を読むのは、原著論文を読みこなせるようになって、専門分野の語彙力がついてからでいいでしょう。

 

基礎研究の論文の場合

原著論文ならどんなものでもいいかというと、初心者にはなかなか意味がわかりにくいものもあります。

そこで、基礎研究に関する原著論文を読みやすさの点で2つのタイプに分けてみました。

  • 「新発見」タイプ

文字通り、新たに発見したことを報告しているタイプの論文。「これまでは〜がわかっていなかったが、この研究で新たに〜がわかりました」というシンプルなストーリーがあるので読みやすい。

  • 「データ集めました」タイプ

研究をやっていると「ごちゃっとデータを集めてなんとか論文にしよう」ということになる場合もある。データを発表すること自体が目的なので、結局何が言いたいのかわかりにくくなりがち。「全体として〜の傾向があった」「〜の状況における遺伝子発現プロファイルを明らかにできた」など、モヤッとした結論になることが多い。”Descriptive”な研究と言う人もいる。

言うまでもなく、読みやすいのは「新発見」タイプの方ですので、最初はこちらのタイプの論文を読むのがいいと思います。

ただ、初めからこれらのタイプを見分けるのはなかなか難しいでしょう。

大切なのは、「データ集めました」タイプの論文に当たってしまった場合に、訳がわからなくても落ち込まないことです。

このタイプの論文は、論文を読み慣れた人でも、話の流れをつかむのがなかなか難しいものだからです。

例外的なものとしては、「新しい実験方法や技術を開発しました」というタイプの論文もありますが、分野の実験手法を一通り理解している上級者向けといえるでしょう。

ただし、技術開発をメインとしているラボもあるので、その場合はこういった論文をメインに読んでいくことになると思います。

 

臨床研究の論文の場合

先ほどまでは、基礎研究に関する論文についてでしたが、臨床研究についてはどんな論文から読んでいけばいいでしょうか?

個人的には2つポイントがあると思っています。

ポイント1:大規模な試験を選べ

患者さんの数が多い病気の研究であれば、かなり大規模な研究が行われているはずです。

小規模な研究の文献を読むよりは、まずは大規模に行われた有名な臨床試験の論文を読んでみましょう。

アブストラクトには試験に参加した人の数も必ず書かれているので、数千人単位の参加者がいる研究が見つかったら、まずはそれを読むのがいいと思います。

ただし、マイナーな疾患であったり、最先端の治療法に関する研究の場合は、大人数の患者さんを試験に組み入れることが難しいので、このルールを適用するのは難しいかもしれません。

ポイント2:ガイドラインに引用されている論文を選べ

研究対象とする疾患が決まっている人は、学会の出している診療ガイドラインを見てみてもおもしろいと思います。

各疾患の診療ガイドラインでは、過去の研究論文をエビデンスとして標準的な治療法を定めていますので、現在医療で使われている治療技術のルーツとなる論文を探し当てることができるのです。

診療ガイドラインは、Googleサーチすると出てきて、オンラインで読めるものもあるので、ぜひ探してみてください。

 

実際に論文はどうやって探す?

ここまでは、どんな論文が初心者にオススメか紹介してきましたが、論文を検索するとたくさんヒットしてきてしまうので、どれを読んだらいいか迷ってしまうかもしれません。

そんな時は、次のようなことも参考にしてみてください。

 

引用回数の多い論文を探そう

論文の引用回数は、研究の良し悪しを判断する1つの指標になっていて、特に研究分野の「転換点」となっている論文で多くなる気がします。

なので、どの論文を読めば良いかわからない場合は、とりあえず引用回数の多いものを読んでみるのが、ハズレの少ない方法だと思います。

では、引用回数はどうやって調べるかというと、Google scholarというサイトを使えば、簡単に見ることができます。

聞いたことがある人も多いと思いますが、これはGoogleが提供している論文専用の検索エンジンです。

たとえば次のように”diabetes”(糖尿病)というワードで検索をかけると、「引用元」というところに、その論文が他の論文に何回引用されたか示してくれます。

たとえば、一番上の論文は、1万回以上引用されています。

これは例外的に多いですが、おおむね100回以上引用されている論文であれば、ぜひ読んでおきたい論文といえるでしょう。

ただし当たり前ですが、最近出版された論文ほど引用回数が少なくなるので、その辺も考えながら読む論文を選んでみてください。

 

一流ジャーナルの論文を読んだ方がいいの?

先生や先輩たちは、NatureやScienceといった、いわゆる一流誌に掲載された論文を読むように勧めてくるかもしれません。

たしかに、最先端の研究を知っておくという点では、それも非常に重要なことです。

ですが、特にこの2誌は、他のジャーナルと形式が違ったり、ちょっとおしゃれな英語表現を使っていたりするため、初心者がいきなり読むには少し難しい印象があります。

ですので、NatureやScienceは、他のジャーナルで少し語彙力をつけてから読んでみるのが、個人的にはオススメです。

一方で、臨床研究の場合は、New England Journal of MedicineやLancetといった一流誌でも、それほど英語の難易度は大きく変わらない印象です。

臨床研究の場合、論文の形式がほぼ定まっていて、個性を出す余地があまりないのだと思います。

臆することなく、最先端の研究成果を吸収しましょう!

 

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まとめ

今回の内容を簡単にまとめておきますね。

  • まずは原著論文を読んでみよう。
  • 基礎研究なら「新発見」タイプの論文が読みやすい。
  • 臨床研究なら、大規模な研究を読んでみよう。
  • 引用回数の多い論文から読んでみよう。
  • 載っているジャーナルは最初は気にしない。

どうでしたか?

たくさん論文を読んでいると、あまりおもしろくなかったり、言いたいことがよくわからない論文も結構あります。

なので、意味がわからない論文に当たってもへこまずに、まずは色々読んでみましょう。

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