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こんにちは、ワイルド研室長です。
メディカルライターとして、「書く」ことを職業にしています。
理系の大学生や大学院生が「書く」ものといえば、卒論や修論ですね。
(学科によっては必要ないところもあるようですが)
でもいざ書こうとすると、なかなか進まなかったり、モチベーションが上がらなかったり、人によっては「なんでこんなもの書かなきゃいけないんだろう?」と思いはじめてしまったり…。
なかには「単位が取れれば良い」と、先生や先輩に修正してもらったものを、そのまま提出してしまう人もいるかもしれません。
ですが、それは非常にもったいないことだと、個人的には思います。
今回は、私が大学在学中に「書く」トレーニングをすることで得られたスキルや、そのスキルが社会に出てからどのように役立つのか、といったことについて、経験を共有してみたいと思います。
目次
「科学」という仕事は「言葉で表現すること」
大学で理系の学部を志す理由は人それぞれだと思います。
動物が生まれる仕組みを知りたい、星を見るのが好き、最新機器を使った実験をやってみたいなど…
その希望は、学年が進むと実際に研究室に所属して、思う存分叶えることができるでしょう。
そして、実験データを待っている時のドキドキ感や、世界で自分しか知らないことを(たとえ小さなことでも)発見した時の感動は、大学の研究室以外ではなかなか味わえないものでしょう。
理系の学部に進んだ人たちには、一生懸命に実験に取り組んで、このような体験をぜひすべきだと思います。
ですが、そんな楽しい時間も束の間、「卒論」というものがだんだんと迫ってきます。
理系の学部に入る人の中で、「書くことが好き」という理由で理系の学部に入る人は少数派でしょう。
ここで多くの理系学生たちが、苦しむことになるのです。
もちろん科学の原動力は、皆さんが大学に入りたての時に持っていた、好奇心や探究心ですから、研究室で思いきり満たすべきでしょう。
でも考えてみてください。
あなたの好奇心をいくら満たしたところで、それは「仕事」にはならないのです。
ロックバンドが演奏をしてはじめて人から聞いてもらえるように、漫画家が最後のコマまで描き切ってはじめて人に読んでもらえるように、研究者は論文を書いてはじめて人に認められるのです。
論文を書くことはものすごくハードルが高い技術
そうは言っても、、、というのが正直なところだと思います。
今でこそ私も、メディカルライターとして文章を書く仕事をしていますが、自分で「書けるようになった!」と自覚できるようになるまでには、長い時間がかかりました。
はじめて書いた投稿論文は、わずか数ページでしたが、何度も何度も書き直して、結局採用されるまでに1年以上かかってしまいました。
研究室にいた時の自分の周りの友人や後輩を見ても、はじめから楽々と書けた人間はいないように思います。
だから「こんなのできない」と嘆く必要はありません。
「論文を書く」ということは、たとえ「たかが卒論」だとしても、とてもとても難しいことをやっているのだと、まずは考えましょう。
一生懸命に自分の研究に向き合った人なら、卒論レベルの小さな小さな発見であったとしても、誰かに知ってもらいたいという気持ちは、少なからず持っているものだと思います。
その気持ちを大切に、気長にスキルアップをしていくべきだと、私は思っています。
まずは「大人の作文」を書けるようになろう
「論文を書くことは難しい」ということがわかったとして、ではどこから上達していけばいいのでしょうか?
私がもっとも大切だと考えるのは、「大人の作文」を書けるようになることです。
例として、あなたが「ワイルド病の治療薬ブタブタミンの作用メカニズムについての研究」というテーマをもらっているとしましょう。
次の2つの文章を読んでみてください。何を感じますか?
パターン1
ワイルド病とは、脳に障害が出る疾患です。
ワイルド病にはブタブタミンという治療薬があります。
そこで私は、このブタブタミンの治療薬としての作用メカニズムを調べました。
パターン2
脳に障害を引き起こすワイルド病は、現在100万人の患者がいるとされており、この病気の克服が日本の医療にとって重要な課題となっています。
ワイルド病の治療薬として現在もっとも頻繁に使われているのがブタブタミンなのですが、その作用メカニズムは明らかになっておらず、ブタブタミンが効果を示さない患者さんもいることがわかっています。
そこで私は、このブタブタミンの治療薬としての作用メカニズムを明らかにすることで、より多くの患者さんに有効な治療法を開発するための、糸口を探ることにしました。
言うまでもなく、1つ目の文章が「子供の作文」、2つ目が「大人の作文」です。
文章の上手下手の前に、パターン2の方が単純に情報量が多いじゃないか、と思われたんじゃないでしょうか。
でも、ただ無駄に情報量が増えただけのではありません。
「どんな」情報が増えたのかわかりますか?
パターン1を読むと「ああ、そういう研究もあるかもね」くらいにしか感じなかったと思いますが、パターン2には「たしかにこの研究は大切だ」と思わせるものがあるように感じませんか?
つまり、パターン2では、研究の「必然性」を相手に感じさせることができる文章にグレードアップしているのです。
この研究の「必然性」を意識して文章を書くトレーニングを続けることで、格段にいい文章が書けるようになると思っています。
あなたを雇う「必然性」はどこにあるのか?
この「必然性」を感じさせるように書くスキルは、学術論文を書くためだけの技術では決してありません。
たとえば就活では、エントリーシートや面接などで色々な質問をされますが、結局のところ企業の採用担当者が知りたいのは、「あなたを雇う必然性はどこにあるのか?」という1点なのです。
なぜなら、採用担当者は、誰を採用するのか決める時に、ただ「なんとなく」で決めることはできず、会社のリソース(会社みんなのお金)を利用してどの人材を雇うか決めるわけですから、会社のみんなに「これこれこういう理由で」この人を雇います、と説得力のある説明をしなければならないからです。
雇う「必然性」をアピールできない学生を採用しようとした場合、採用担当者は自分の頭で考えて、会社の人たちに「必然性」を伝えなければなりません。
ところが、学生が「必然性」をアピールしてくれれば、採用担当者はそれを会社の人に伝えれば良いだけなので、手間が1つ省けます。
そういう人を採用しない手はないでしょう。
「必然性」をアピールすることで、人を動かしていく。
それが「大人の」仕事の仕方だと思っています。
卒論は「最後の練習試合」
それでは、「必然性」をアピールするにはどのような文章を書けばいいのでしょうか?
これに関しては、残念ながら攻略法のようなものはないと思っています。
とにかく書いて、人に読んでもらって、ダメ出しをもらって、また書き直して…
その繰り返しでしか、上達することはないと思います。
でもそうやって苦労して技術を身につけておくと、いいこともあります。
私は何度か転職をしていますが、そのたびにコツコツと磨いてきた「書く技術」に助けられてきました。
就活で門前払いをされることもなかったですし、実際に今は「書くこと」を仕事にしているほどです。
「しっかりとした論文を書ける」ということは、我が身を助けてくれる「芸」の一つのなのです。
今思えば、大学で論文を書くために費やした時間が、社会に出る前にできる最後のトレーニング期間だったのかな、と個人的には思っています。
まとまった量の文章を書いて、誰かに丁寧に読んでもらい、アドバイスをもらう、という機会は社会に出てからは、なかなかありません。
卒論は、まさに最後の練習試合と言えるでしょう。
(CMです)
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おわりに
今回は「卒論」をテーマに、思うところを書いてみました。
もちろん大学でやる研究といえば、実験をしたり、データの解析をしたり、といったことがメインになるのは間違いありません。
でも、ちょっと違う視点から「大学で学べることは、それだけじゃないよ」ということを書いてみたかったのです。
私は、仕事柄、ほとんどの時間を読んだり書いたりに費やしているので、これからも「科学の読み書き」のスキルアップ法ついて、少しずつ書いて行こうと思います。
ご意見ご感想などあれば@wildlabjpまで。
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