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- 日本史×科学 第1回「鳥取城とリフィーディング症候群」 - 2024年9月6日
私、NHKの大河ドラマが結構好きでよく見ています。
2023年は徳川家康が主人公でした。主人公の王道ですね。
当然豊臣秀吉が絡んでくるわけですが、彼(当時は羽柴秀吉)が中国地方を攻略する中で「鳥取城渇え殺し(かつえごろし)」というのがあります。いわゆる兵糧攻めです。
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鳥取城の兵糧攻め「渇え殺し」の実態
※鳥取城は現在石垣のみが残っています。画像はあくまでもイメージです。
この兵糧攻めは1581年(天正9年)に鳥取城主・吉川経家(きっかわ つねいえ)を攻めた、第二次鳥取城の戦いのときに起きました。
既に前年の第一次の戦いで村は荒れ果てており、その影響でこの地方は凶作。兵糧は20日分しかなかったようです。そしてそれに追い打ちをかけたのが、秀吉軍による米の買い占めでした。
また秀吉軍は周辺の村を襲って農民を鳥取城に追いやっています。兵士1500人に加えて農民2000人以上が城に入ることになり、食糧事情はかなり逼迫していたようです。
その上援軍が来ないように自軍を配置し、鳥取城を孤立無援状態にしました。
結果、6月から籠城を始めたものの8月には備蓄食料がほぼ底を突き、10月に降伏。
籠城中、城にいた人々は敵の目を掻い潜り、城外の草木を刈って食べていたようです。また負傷した兵士を看護せず、肉を削いで食べるカニバリズムも発生したとか。当然ながら、餓死者も出たようです。
城主の吉川経家は、生き残った兵士・農民の命を自分の命と引き換えに助けてほしいと懇願し、自決しました。そうして戦いは終結しました。
その後、秀吉軍は生存者に粥を振る舞ったのですが、生存者の過半数は次々と急死してしまいます。これは現在で言う「リフィーディング症候群」だと考えられています。
リフィーディング症候群とは
リフィーディング症候群とは、re(再び)-feeding(摂取)。つまり、飢餓状態から再び食事を摂るときに急激に十分量の栄養補給を行うと発生する代謝合併症です。
食事で糖質を摂ることができるとき、ヒトは糖をエネルギー源にします。
しかし飢餓状態では糖を食事で取り入れることができないので、体内のタンパク質や脂肪を分解して低血糖にならないようにします。一方で、食事が摂れないことにより、体に必要なマグネシウムやリンが不足します。
飢餓状態のときに普通の食事をいきなり摂ると、糖質を細胞に取り込むためにインスリンが大量に分泌されます。そして糖の代謝によってATP(アデノシン三リン酸。リン酸化合物)やタンパク質が合成されます。
このとき大量のリンが細胞に取り込まれ消費されるため、リンの血中濃度が急激に低下します。この状態を低リン血症と言います。
低リン血症に陥ると赤血球内のリン酸化合物(2,3-ジホスホグリセレー ト(DPG))が減り、赤血球が酸素を運ぶ能力は大幅に低下します。その結果、低酸素症が起こります。
これにより心不全、不整脈、呼吸不全、意識障害、けいれん、四肢麻痺などの多様な症状が生じ、約70%という高い確率で死に至る恐ろしい病気です。
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「リフィーディング症候群」の歴史
リフィーディング症候群について医学的論文が出るようになったのは比較的最近で、太平洋戦争の後。
戦争終結後、アメリカ軍が日本人捕虜にご馳走を振舞ったところ、奇異な病態で亡くなったという報告が1番古い論文だそうです。
他方で論文ではないものの、秀吉に仕えた武将・竹中重門(たけなか しげかど)が著した秀吉の伝記「 豊鑑(とよかがみ) 」には、「粥をたくさん食べた者はすぐに死んでしまったが、少し食べた者は問題なかった」という記述があるそうです。
もしかしたら秀吉はそのときすでに、リフィーディング症候群の原因に薄々気が付いていたのかもしれませんね。
<参考資料>
鳥取城渇え殺しについて「鳥取城の戦い〜史上最悪の籠城戦による「渇え殺し」」
https://www.tabi-samurai-japan.com/story/event/610/
リフィーディング症候群とは「高の原中央病院 DIニュース2017年10月号」
https://www.takanohara-ch.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/11/di201710.pdf
リフィーディング症候群の最初の報告書について「集中治療患者におけるrefeeding symdrome」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssmn/50/6/50_321/_pdf