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こんにちは!
今回は2020/11/14(土)に開催した “『八月の銀の雪』を語る会” というトークイベントのレポートになります!
スピーカーに皆様、ご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました(自分もスピーカーとして参加させていただきました)。
※スピーカーの情報等はイベントページ(リンクはこちら)をご参照ください。
スピーカーの方々にとっても、聴講で参加していただいた参加者にとっても両者ともに様々な気付きがあった回でした!
イベントの全てを語り切ることはできませんが、イベントで話した内容の概要と、更にトークイベントで話すことによって生まれた気付きや共有された今後の論点・課題についてお話していこうと思います!
関連記事:11/14(土)開催【トークイベント】『八月の銀の雪』を語る会
目次
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小説を起点に “科学” について語る
今回のイベントは伊与原新先生が執筆された『八月の銀の雪』(新潮社リンク)を読んで、その内容についてスピーカーが語りあう、という内容のトークイベントでした。
『八月の銀の雪』について簡単に説明させていただくと、『八月の銀の雪』は5つの短編小説からなる書籍です。
それぞれの短編集において、現代社会で誰もが抱きうる悩みを抱えている主人公が、科学やサイエンスに触れることで前向きな気持ちを取り戻していく姿が描かれています。
イベントの流れとしては、イベントに先立ってスピーカーの方々に書いていただいた書評の内容について改めて語っていただいた後、そこから派生した様々な話題について深く議論していく、という形式でした。
まず小説に対する率直な感想として、スピーカーから “心が温まる” という声が多く聞かれました。
その後、イベントは小説の主人公に対してどのような感情移入をしたのか、作中の科学の描写をどう感じたのか、というような、小説を読んだ時の読者としての感情の動きの理由について話していました。
更には、主人公と対比して描かれた、科学や研究に携わっている方への感情移入をはじめ、大学院生・企業研究者というそれぞれの立場を絡めたような話題にも話が移っていき、本当に多くの内容が話題に上がりました。
関連記事:伊与原新 『八月の銀の雪』 | 新潮社(新潮社リンク)
関連記事:伊与原新『八月の銀の雪』表題作特別公開 | 新潮社(新潮社リンク)
“科学” と改めて向き合うきっかけになる
今回のイベントの中で『八月の銀の雪』について語る上で、“科学とはなにか?” という問いは切り離せない問いでした。
イベント中でも、『八月の銀の雪』で描かれている科学の描写について、 “科学” はどのような側面を持っているのか、作中で扱った科学の描写の意図は何なのか、そして “科学はそもそもどのようなものか” という話題が出ました。
スピーカーの間である程度共通した点としては、“科学はそれぞれの学問分野というフィールドにおける解釈である” という点が挙げられます。
一方で、アカデミアで研究を行っている大学院生と、企業で研究をしている方で、普段の科学に対する考え方が少し異なる、という興味深い論点も浮上しました。
アカデミアで研究を行っている大学院生からは、科学や学問の性質として、“(科学や学問に対して)嘘をつかない/素直である“ という考え方が出てきました。この性質は『八月の銀の雪』の中で描写されている科学の性質でもありました。
そのような考え方に対して、企業で研究をしている方からは、それが確かに理想的だとしながらも、一種の “青臭さ” を感じるというような意見が出てきました。
企業で研究を行っていると、学問以外のフィールドにおいても科学や研究に対する解釈を与える必要があり、大学院生よりも科学に対する解釈の文脈が増える、という指摘でした。
企業では科学に対する解釈の文脈が増えることが日常となり、科学や学問のフィールドからすれば言い切れない事柄もつい言ってしまう、という声も聞かれました。
最終的に、このような意見の交流を通して、企業で研究をされている方々が “科学” と向き合いなおす契機になったという声が聞かれました。
これは今回のトークイベントでの大きな成果の1つであったと思います。
周囲の人と分かり合うためののサイエンス “コミュニケーション”
さて、ここで、イベントの内容から少し離れて、イベントを総括して考えたときに浮上した論点について考えていければと思います。
先ほど紹介したイベントの内容の中で、“企業では学問以外のフィールドで科学や研究に対する解釈を与える必要から、科学者・研究者としては不本意なことをしてしまうことがある” ということがありました。
この点に対して、科学者や研究者はどう向き合っていくことができるのか、という点について考えていこうと思います。
結論から言うと科学者や研究者がこの点に向き合うには、“コミュニケーション” が必要である、ということが言えると思います。
企業の中だと研究・科学の利害関係者が増える、というのはイベントで得られた声ですが、言い換えると、研究や科学に対して異なる考え方を持つ人と多く関わるようになる、という点でしょう。
この時、科学者や研究者は他の人とコミュニケーションを取り、相手の方が何を科学や研究に求めているのかを聞き、科学者・研究者として大切にしたいことは何かを伝える、というコミュニケーションが必要なのだと思います。
そして、これこそが双方的な1つのサイエンス “コミュニケーション” の形であるのだと思います。
(本来、科学者・研究者と相手の方の立場に上下のない対等な関係で、最後は情熱があれば伝わるという話もでましたね。)
科学者・研究者として何を大切にしたいのか、ということについて身の周りや務めている企業といったローカルな場でコミュニケーションを図っていく、ということが、科学者・研究者として大切にしたい想いを失わずに、科学や研究に関わっていくための手段なのではないか、と考えずにはいられませんでした。
※サイエンスコミュニケーションというと、専門家が非専門家について専門知識を伝えるような啓蒙的なものを想像する方もいるかもしれませんが、30年ほど前からこのような形態のサイエンスコミュニケーションでは不十分である、と言われるようになりました。
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“サイエンス自体” を語る場は気付きやコミュニケーションを生む
さて、今回の “『八月の銀の雪』を語る会” のイベントレポートのまとめに入って行こうと思います。
今回のトークイベントの中で見えたものの中で、自分が特に重要だと思ったのは次の2点です。
●科学について包括的に話すことは、科学者・研究者の側にとっても内面的なメリットがある
●(参加者の立場に関わらず)“科学そのものとは何か”を問うことで、科学との(在りたい)関係性を考え直すきっかけになる
今回のようなイベントは、本来サイエンスコミュニケーションの文脈では参加者の側に着目されがちです。
しかし、スピーカーである科学者・研究者の側にも大きな気付きがある、ということが分かったのは、今回のイベントを通して浮き彫りになった、重要なポイントだと思っています。
また、科学自体を語ることで科学者・研究者が大切にしたいものを思い出す様子を見ることは、科学者・研究者以外の人にも科学を伝えるうえで重要な役割を果たすでしょう。この点についても、まだまだ考えていく余地はあると思っています。
次回のイベントはまだ未定ですが、今後もこのような “科学” に関する対話の場は理系とーくで作っていきたいな、と思いました。(もしかしたら『八月の銀の雪』のトークイベント第2弾があるかも!?)
最後になりますが、今回の『八月の銀の雪』の書評やトークイベントをはじめとした一連の企画のきっかけおよび協力をいただきました新潮社様に厚く感謝の意を申し上げます。
そして何よりも全てのきっかけとなる『八月の銀の雪』を執筆された伊与原新先生に、理系とーく一同、尊敬と感謝の意を表します。
関連記事:科学に心を温められる、そんな物語を読んだことありますか?【『八月の銀の雪』書評】
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