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工学系に所属しているtsuyoshiです。
今回は、集積回路などにおける微細構造物の加工の肝となる、加工の精度(=解像度)についての記事です。
(引用:Cen Shawn Wu et al., Lithography ,2010)
この写真のようなマイクロ・ナノの大きさのものをどうやって作っているのでしょうか? より小さなものを作るためにどのような工夫がされているのでしょうか?
順にみていきましょう!
目次
集積回路を支えるマイクロ・ナノ加工
私たちの生活の中には、たくさんの電気製品で溢れています。
パソコン・電光掲示板・スマホなどなど、挙げればきりがありません。
集積回路は、私たちの生活を支える電化製品の核となる部品です。
集積回路の性能を上げることが電化製品の性能を上げることにつながるといっても過言ではないほど、重要な部品といえます。
電化製品の性能を上げるために、技術者たちは集積回路を高効率化しようとしたり、小型化しようとします。
集積回路は半導体の上に回路となる金属や絶縁体を積み重ねて作ります。
つまり、集積回路を小型化するには、より小さな構造を作る必要があります。
どれくらい小さな構造かというと、マイクロメートルやナノメートルの構造です。
マイクロ・ナノ加工といった微細加工が集積回路を支えているということができます。
削って行う微細加工
加工の方法には様々な方法があります。
例えば、切る・接合させる・積み上げる・折るなどの加工の方法が挙げられます。
その中でも微細加工は積み上げることと削る・溶かすことの組み合わせによる加工がほとんどです。
今回の記事では、削ることに焦点を当てて話を進めていきます。
削る加工の例として、のこぎりで木に溝を掘ることを考えてみようと思います。
のこぎりを使うと、木に溝を掘ることができます。
では、この溝の幅はなにによって決まっているでしょうか?
答えは “のこぎりの幅” です。
幅の太いのこぎりで溝を掘れば広い幅の溝ができますし、反対に幅の細いのこぎりで切ると狭い幅の溝ができます。
微細加工の溝も同じように、削ることで作っています!
フォトリソグラフィは “光” で削る
微細構造物を作るときによく使われている方法として、フォトリソグラフィ(photolithography)があります。
フォトリソグラフィは、ウエハと呼ばれる基盤の上に光に反応する物質(=フォトレジスト)を表面に塗布し、光が当たる部分と当たらない部分を分けて露光することで、現像液と呼ばれる溶液で溶けるもしくは溶けない領域を作り、パターンを作る技術のことです。
フォトリソグラフィの工程を直感的に理解するために、下の図を参考にしてみてください。
図 フォトリソグラフィの工程概略図
(引用:A D.Ninno et al., Biophysics and Bioenginnering letters, 2010)
(※図の説明:Exposureが光を当てる工程(=露光)。露光によりPositiveとNegativeに分かれているが、これはレジストの素材によって光を当てた部分と現像液との反応の仕方が異なり、結果としてパターンのでき方が異なるため。)
また、光を当てる部分だけを切り取った図は以下のようになります。
図 レンズとウエハ表面における光
当てられた光がレンズを通して結像し、その結像された場所が削られる訳です。
(※厳密にはレジストを現像液と反応させることで溶かしています。薬品による均一的な溶解と区別し、一部分を選択的に溶かしているという意味で本記事では削るという表現を使っています。)
つまり、光の結像が小さければ小さい程、より小さく削れる訳です。
フォトリソグラフィの解像度は波長、開口率、k1ファクターによって決まる
光で削るといっても、実際にどれくらいの精度で削ることができるのでしょうか?
削ることのできる最小単位の大きさを解像度といいます。
そして、フォトリソグラフィの解像度は以下の式で表されます。
$$R=k_1\frac{λ}{NA}$$Rは解像度(Resolution)、λは光の波長(Wavelength)、NAは開口率(Numerical Aperture)、k1はk1ファクターを表しています。
それぞれどのようなものなのかを見ていきましょう!
光の波長は削るものの大きさ
フォトリソグラフィは光とレジストが反応することによって、表面を削っています。
このとき、”どれくらいの大きさのもので削るか” が問題になります。冒頭で触れた木を切るときの例だと、のこぎりの幅に当たる部分ですね。
フォトリソグラフィの場合、削るものの大きさに当たるのが “光の波長” になります。
つまり、波長が短ければ短い程、より微細な構造を作る(=より微細なパターンを作る)ことができるわけです。
光といっても、現在では可視光よりもさらに波長の短い光が使われています。
(光源となる光の波長の変化は、記事後半の”光の波長を短くして解像度を上げる:EUV” の部分を読んでください。)
開口率はどれくらいの光を取り込めるか
光を狙った場所に当てようとすると、レンズを通して光を集める必要があります。
このとき、どのくらい光を取り込むことができるかを表すのが開口率です。
(開口数という呼び方をされることもあります。)
図 レンズとウエハ表面における光
開口率は以下の式によって決まります。
$$NA=n・sinθ$$ここで、nはレンズとウエハの間の物質の屈折率、θは像に対する光の角度です。
この式から分かるように、空気中において開口率の値は1を超えることはなく、理論的な限界は0.95程度になります。
k1ファクターはプロセス全体における効率
k1ファクターはプロセスファクターやプロセス係数など様々な呼び方で呼ばれます。
その名の通り、光学系のプロセスによって決定する定数になります。
k1ファクターは調べてもよく分からない場合が多いのですが、これはレジストのコントラストなど、プロセス全体を含めたときの性能を表す比例定数になっています。
(※ここでのコントラストは、レジスト上で光が当たっている部位と当たっていない部位がどれだけ綺麗に分かれているかという意味です。)
仮にレジストのコントラストが最大だとしても、光の波長の1/4以下では解像することができません。
そのため、k1ファクターの理論限界は0.25になっています。他のレジスト現像の際のプロセスや素材のことを考えると、実際のその限界は0.30程度になります。
ここまで見てきた通り、より小さな構造を加工をするには
①波長を小さくする②開口率を大きくする③k1ファクターを小さくする
という3つの方法があります。
しかし、③のk1ファクターを小さくすることに関しては先に述べたような突破できない限界があります。
そこで、①波長を小さくする②開口率を大きくするという2点に着目した研究・開発が主に行われています。
光の波長を短くして解像度を上げる:EUV
先程も述べましたが、解像度を上げるには、光源の波長を短くするか開口率を大きくするかの方法があります。
その中でも光の波長を短くすることで解像度を上げようとする研究は盛んにされてきました。
その中でも近年、劇的に光の波長を短くすることで解像度を上げることを実現した研究開発の例としてEUVがあります。
表 光源開発の歴史と波長
光源 | 光の波長(nm) | 時期(目安) |
g線(水銀ランプ) | 436 |
~1990 |
i線(水銀ランプ) | 365 | ~1995 |
KrF(エキシマレーザー) | 248 | 1990~ |
ArF(エキシマレーザー) | 193 | 2000~ |
EUV | 13.6 | 2018~ |
EUVとは、Extra Ultra Violetの略称です。
強力なレーザー光を用いてSn(錫)をプラズマ化させて光源として用いています。
図 EUV光源発生の原理図
(引用:Rachel Courtland., IEEE SPECTRUM, 2016)
また、EUVの光学系の全体図は次のようになっています。
図 EUV露光装置の光学系
(引用:ASML, Carl Zeiss, EUVL Workshop 2016, 2016)
すごく複雑な光学系ですね(笑)
EUVでは、13.6nmというとても小さな波長を利用することで、微細な構造加工を可能にします。現在では、7nm程度のスケーリングが可能とされています。
ただ、EUVの欠点として、光学系にミラーが組み込まれており、光学系が大規模かつ繊細であるため、開口率などの改良が困難であるという点が挙げられます。
しかし、3nmスケールのパターニングまでは開口率の改善によって成し遂げることができるとも言われています。
まだまだ改善の余地が残されているということですね。
開口率を大きくして解像度を上げる:液浸露光装置
先程、開口率の理論限界は0.95程度だと述べました。
しかし、2000年代に入ってから、開口率が1を超えるような装置が開発されました。
それが液浸露光装置です。
開口率の理論限界が1を超えない理由は、レンズとウエハの間の媒質が空気であるからです。
そこで、液浸露光装置ではレンズとウエハの間を屈折率の大きな液体で満たすことで解像度を上げるというアプローチが取られました。
例えば純粋の場合、屈折率は1.44です。そこから光学系における理論的な限界を考えても、1.35程度の開口率が理論限界として得られます。
もちろん、レンズとウエハの間を液体で満たすことには様々な懸念点が損座していました。
例えば、液体がウエハに侵入することによってパターンが上手く作れないことや不純物が混入すること、素材の劣化や焦点深度の変化といったことです。
しかし、このような問題に対する改善を重ねて、液浸露光装置は開発されています。
(参考:内山貴之, NEC技法, 2009)
小さくなればなるほど、作るのは難しくなっていく
作成するパターンが微細になればなるほど、作ることが難しくなります。
波長を短くするにも限界がありますし、EUVのように波長が短くなればなるほど光学系が複雑になっていき開口率を大きくすることは難しくなっていきます。
微細構造を作成するための研究はたくさん行われていますが、加工の理論限界点を迎えてしまうことは十分にありえます。
それとも、さらに微小な波長を利用する方法が開発されるのでしょうか?
どちらにせよ、何らかの転換期を迎えるのはそう遠くないのかもしれません。
(参考:東木達彦 et al., 東芝レビュー, 2012)
(CMです)
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コラム:ムーアの法則はいつまで適用できる?
ムーアの法則とは、インテル創業者の1人であるゴードン=ムーア氏が提唱した、ムーア氏の経験則に基づいた集積回路の発達の予測を、法則としたものである。
内容は、半導体の集積率が18カ月(=1年半)で2倍になるというもの。(≒性能にすると約2倍)
あくまで経験則ですが、今までの集積回路の発展とはよく一致するため、よく用いられてきました。
ただ、このムーアの法則、段々限界が近づいてきたと感じます。
EUVの説明でも感じたかもしれませんが、かなり頑張って微小な波長の光源を得ています。EUVが実現する数10nmレベルの光源よりも更に小さな波長を持つ光源を得ることはどんどん難しくなっていくでしょう。
ムーア氏自身も2005年に、「いずれは原子レベルの理論的障壁にぶつかり、ムーアの法則が適用できなくなる」とコメントしています。
理論的な限界をいずれ迎えることが明らかな微細加工の世界、限界はいつ来るのでしょうか?
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