【Dr.STONE(ドクターストーン)】スターリングエンジンってなに?熱力学的に原理を解説!

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tsuyoshi

工学研究科修士卒の在野研究者です。大学院では"力"に着目した細胞の実験をしていました。最近数理にも興味を持ち始めました。理科教育やサイエンスコミュニケーションの活動も積極的にやっていきたいと思っています!!

毎週週刊少年ジャンプを購読して、Dr.STONEを楽しみにしているtsuyoshiです。

Dr.STONE、面白いですよね(笑)。

物語の中で、いろいろなものを作り出していく様子は読んでいてワクワクします。

(物語のあらすじは、記事末のコラムを参照にしてください。)

 

ただ、Dr.STONEの中で出てきているものが実際にどんなものなのか、どのような原理・バックグラウンドを持つのかなどは作中ではあまり描かれていません。

(※これには、原理等を難しく記述し過ぎないようにしている作者の配慮もあると思います。作中では基本的に原理等に基づいた描写がされていますし、原理を記述している部分もあります。ただ、原理の部分が分からなくても楽しんで読める工夫がされています。素晴らしいの一言に尽きます。)

この記事では、作中に出てきたスターリングエンジンについて取り上げ、”スターリングエンジンとはなにか?” “学問(熱力学)的にはスターリングエンジンをどう扱うのか?” という点について解説していきます!

 

関連記事:【Dr.STONE(ドクターストーン)】ルリを肺炎から救ったサルファ剤とは??

 

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Dr.STONEで出てきたスターリングエンジン

Dr.STONEのどこでスターリングエンジンが出てきたかを見ていきましょう。【アニメ派の人はネタバレ注意!!】

 

作中には動力機関としてのエンジンがたくさん登場しています。

その中でもスターリングエンジンは、千空たちが石油を手に入れた後、その石油を使って遠洋に繰り出すための小型ボートの動力として登場しました。その結果、WHYマンを発見(?)することに繋がりましたね。

また、司のコールドスリープのために使われた冷凍機も、実は原理はスターリングエンジンと似たものなのです。(本質的にはほぼ同じということもできます。詳しくは後ほど解説していきます!)

この冷凍機は、コミックスの作者コメントで言われたようにスターリング冷凍機と呼ばれるものです。

 

このようにスターリングエンジンに関するトピックは、動力源として作中に何度か登場しています。

 

スターリングエンジンとはなにか

スターリングエンジンが動いているところを見てみよう!

では、スターリングエンジンとはいったい何なのでしょうか?

スターリングさんが作ったエンジンだからスターリングエンジン(Stirling Engine)と呼ばれているのですが、それでは何も分からないでしょう。

googleで “stirling engine” と画像検索するといろいろなスターリングエンジンの画像が出てきます。

(日本語で検索するよりも、英語で検索したほうが画像がいっぱい出てきます。)

次の画像は自分がむかし学部の実習のときに作ったスターリングエンジンの写真です。

図 スターリングエンジン

 

また、スターリングエンジンが動いている様子は次の動画を見てみてください(上の画像のものと構造は同じものです)。

動画 スターリングエンジンが動くシーン

 

ちなみに、どうやらスターリングエンジンを自作するキットも販売されているようなので、気になった人は検索して買ってみてください。

 

スターリングエンジンが動く原理

スターリングエンジンはどのような構造をしており、どのような原理で動いているのでしょうか?

まず、スターリングエンジンの構造は以下の図のようになっています。

図 スターリングエンジンの構造

(画像参考:産総研サイエンスタウンホームページ。https://www.aist.go.jp/science_town/environment/environment_12/environment_12_01.html)

 

スターリングエンジンは、以下の図のように加熱と冷却を繰り返しながら動いています。(赤い部分が熱された空気、青い部分が冷却された空気を表しています。)

図 スターリングエンジンの原理

(画像参考:産総研サイエンスタウンホームページ。https://www.aist.go.jp/science_town/environment/environment_12/environment_12_01.html)

 

 

①膨張シリンダ部の加熱

バーナー等を用いて、膨張シリンダ部を加熱します。

 

②加熱空気の移動

①で温められた空気が膨張し、膨張ピストンを押します。

これにより①で加熱された空気が流路の中を通って、圧縮シリンダ部へと移動します。

 

③加熱空気の冷却

②で冷却部へと移動した加熱空気が、圧縮シリンダ部で冷却されます。

 

④冷却空気の移動

③で冷却された空気は圧縮シリンダ部で圧縮され、膨張シリンダ部へと移動します。

そして①の状態に戻り、以降はこれを繰り返します。

 

このようにして、スターリングエンジンは動き続けるわけです。

 

スターリングエンジンの特徴としては、

燃料の種類が豊富(熱することができる気体なら何でもよい)

騒音や振動が少ない

ガソリンなどを燃やさないので、環境に優しい

といった点が挙げられます。

 

しかし、スターリングエンジンにも欠点はあります。

ディーゼルエンジンなどのエンジンでは、燃料を燃やすことによって莫大な熱エネルギーを得ているのに対し、スターリングエンジンではバーナーなどを使って外から加熱することが必要であり、熱することのできる空気の温度に限界があります。

そのため、ディーゼルエンジンなどと比べると出力が小さくなってしまうという欠点があり、大出力が必要な場面が多い現代社会の中では使いづらいのが実情です。

 

熱力学的にスターリングエンジンを考える

ここまでは、スターリングエンジンの定性的な(≒性質における)特徴を見てきました。

ここからは、熱力学という1学問の観点からスターリングエンジンがどのようなものであるのかを考えていこうと思います。

(※数式が分からなければ飛ばして読んでください。飛ばして読んでも、雰囲気は十分つかめると思います!)

 

スターリングエンジンは熱機関の1つ-熱機関ってなに?

熱機関は熱(熱エネルギー)を外部の機械的エネルギーに変換する装置のことを指します。

先ほどのスターリングエンジンでも、空気に与えた熱エネルギーをフライホイールの運動へと変換していました。

 

ここで、熱エネルギーからフライホイールの運動へとエネルギーが変換される際、空気を介しています。

このような空気のことを、熱力学では作動流体と呼んでいます。(以降、エンジン内の空気のことを作動流体・流体と呼んでいることがあります。)

 

熱機関の性能を決める熱効率

熱機関の性能は、簡潔にいうと、加えた熱量(仕事)に対してどのくらいの割合の仕事が動力に変換されているのかということによって表され、その割合のことを熱効と呼びます。

更に厳密に言うと、流体に加えられた熱エネルギーに対する流体が外界に対して行う仕事の割合が熱効率です。

熱効率ηを式で表すと以下のようになります

$$η=\frac{W}{q_1}=\frac{q_1-q_2}{q_1}=1-\frac{q_2}{q_1}$$

ここでWは流体が外界対して行った仕事、q1は流体に加えた仕事(熱エネルギーetc)の合計、q2は流体から出ていった仕事(熱エネルギーetc)の合計のことを指します。

 

スターリングエンジンのサイクル

熱力学におけるサイクルとは、熱機関において作動流体が行う一連の状態変化を表したサイクルを指します。

 

スターリングエンジンにおけるサイクルは先ほど述べたとおり、状態1→【定積過程(加熱)】→状態2→【定温過程】→状態3→【定積過程(冷却)】→状態4→【定温過程】→状態1によって構成されています。

これがサイクルになっていることを実感するために、作動流体のそれぞれの段階における状態をプロットしたp-v図とT-s図を見てみましょう。

pは流体にかかる圧力、vは流体の体積、Tは流体の温度、sは流体のエントロピーを表しています。エントロピーに馴染みのない人もいると思いますが、エントロピーはQ(熱量)=Tsで定義されている量で、T-s図はそれぞれの段階でどれくらいの熱量を持っているのかということを表しています。「エントロピーは熱量を表す指標なんだな」くらいの認識で大丈夫です。

図 スターリングサイクル

 

図を見ると、状態1からスタートして状態2・3・4を経て状態1に帰ってくる様子が分かります。

また、スターリングサイクルの熱の出入りを書き加えると、次のようになります。

図 スターリングサイクル(熱の出入り)

 

ここで、経路③から出た熱が経路①に戻ってきています。つまり、経路③の冷却の時に排出した熱を使って、経路①のときに空気を加熱するわけです。

(冒頭のスターリングエンジンだと、流路部分がその役割を果たしています。)

これこそがスターリングエンジンの特徴である、再生器(再生式熱交換器)です。

再生器とは、高温部で発生する熱エネルギーを一度他の形で預けることで、再度その熱エネルギーを使えるようにする交換器のことをいいます。

つまり、再生器によって一度外部に放出したエネルギーを改めて取り込むことで、エネルギーのロスを少なくしているわけです。

理想的な再生器では、100%ロスがなくエネルギーが循環します。(もちろん、現実にはロスがないなんてことはありえないので、理想的な再生器も実現しえません。)

 

スターリングサイクルの熱効率は理論的に最高

スターリングサイクルの熱効率を考えていきましょう。

ここで、スターリングサイクルの作動流体は理想気体であるとし、また作動流体の質量は一定であるとします。

また、熱交換は理想的であるとします。

※以下の式における添え字は、状態i(i=1,2,3,4)を示します。

 

まず、定積過程(経路①、経路③)において、流出入する熱エネルギーを考えます。

cvを定圧比熱とすると、定積過程における熱の変化は熱力学第1法則から、

$$Tds=c_vdT+pdv=c_vdT$$

(∵定積過程のため、dv=0)

で表されます。(いきなり出てきた式ですが、このようなものだと理解してください。詳しい導出が知りたい方は、参考リンクへどうぞ。)

これを用いて状態1から状態2(経路①)で加熱される熱量を考えると、

$$q_{12}=\int_{1}^{2}{}dq=c_v\int_{1}^{2}{}dT=c_v(T_2-T_1)$$

ここで、理想的な熱交換が行われているとき、状態3から状態4(経路③)で冷却された熱量が等しいため、

$$c_v(T_2-T_1)=c_v(T_3-T_4)=-q_{34}$$

となり、

$$q=q_{12}=-q_{34}$$

と表せます。(符号の違いは加熱か冷却かの違いです。)

このことから、サイクルでは経路①と経路②で熱エネルギーが流入して経路③と経路④で熱エネルギーが流出していますが、経路①と経路③での熱エネルギーの流出入は相殺されるので、実質的には経路②と経路④における熱エネルギーの流出入を考えればよいことになります。

そのため、スターリングサイクルの熱効率は

$$η=\frac{q_1-q_2}{q_1}=\frac{T_2(s_3-s_2)-T_1(s_4-s_1)}{T_2(s_3-s_2)}$$

となります。

ここで、s3s2s4s1の大きさを比べます。

$$s_3-s_2=(s_3-s_4)+(s_4-s_2)=\int_{4}^{3}{}ds+(s_4-s_2)$$

$$=c_v\int_{4}^{3}{}\frac{dT}{T}+(s_4-s_2)=c_v\ln{T_3/T_4}+(s_4-s_2)$$

$$=c_v\ln{T_2/T_1}+(s_4-s_2)=(s_2-s_1)+(s_4-s_2)=s_4-s_1$$

この式変形から、s3s2s4s1が等しいことが分かります。

高温側の温度をTH(=T2=T3)、低温側の温度をTL(=T1=T4)とすると、熱効率は

$$η=\frac{T_2-T_1}{T_2}=1-\frac{T_1}{T_2}=1-\frac{T_L}{T_H}$$

これがスターリングサイクルの熱効率です。

 

比較のために、理論的に最高の熱効率を持つカルノーサイクルの熱効率を考えてみましょう。

カルノーサイクルの熱効率は、

$$η_C=1-\frac{T_L}{T_H}$$

で表されます。

これは先ほど求めたスターリングサイクルの熱効率と一致します。

つまり、スターリングエンジンでは、熱交換を行うことによって、理論的に最高の熱効率を実現するカルノーサイクルと同様の熱効率を実現しているのです。

 

スターリングエンジンの熱効率は理論的に最高

 

※補足:カルノーサイクル

状態1→【可逆断熱圧縮】→状態2→【定温膨張】→状態3→【可逆断熱膨張】→状態4→【定温圧縮】→状態1によって構成される熱サイクル。

p-v図、T-s図は下図の通り。理論上最大の熱効率を実現する(T-s図の面積が状態間において移動した熱量を表していることから直感的にも理論上最大効率であることが分かる)。

図 カルノーサイクル

 

コラム:内燃機関と外燃機関

熱機関は内燃機関と外燃機関に分けられています。

内燃機関は、燃焼による高温高圧ガスが直接ピストンを動かして動力となる(=仕事をする)機関のことです。

外燃機関は燃焼などによる熱エネルギーを水などの作動流体に伝えて蒸気に変換し、その蒸気が動力となる(=仕事をする)外燃機関に分けられています。

 

スターリングエンジンは外燃機関の1つです。一般に、外燃機関は内燃機関に比べて大きな出力を得ることが難しいです。

 

スターリング冷凍機ではサイクルを逆に回す

スターリングエンジンとスターリング冷凍機は本質的に同じと述べました。

その理由は、”サイクルを逆にしただけだから” です。

スターリングエンジンでは、熱を与えることで仕事を取り出しました。

スターリング冷凍機では、その逆のことをします。つまり、仕事を与えることで低温の場所から高温の場所へと熱を移動させるのです。

図 スターリング冷凍機のサイクル

 

これによって、低温部を冷やすこと、すなわちサイクルを冷凍機として使用することが可能になるわけです。

ちなみに、作中で登場したスターリング冷凍機ではポンプの間に金の糸が入った空間を用意していました。この部分がスターリング冷凍機における再生器にあたります。

金は熱伝導率が高く、また糸状にすることで表面積が大きくなり、再生器に必要な条件を満たしています。

(本記事では再生器についての詳細な説明は省きますが、詳しく知りたい方は参考のリンク等を参照してください。)

(参考:濱口和洋, 低温工学, 2016)

 

※冷凍サイクルの場合はサイクルの性能を表す指標として成績係数を用います。

成績係数COP(Coefficient of Performance)は、加える仕事をW、移動させる熱量をq2として、以下の式で定義されます。

$$COP=\frac{q_2}{W}$$

スターリング冷凍機の成績係数は

$$COP=\frac{q_2}{W}=\frac{T_1}{T_2-T_1}$$

で表されます。

 

スターリングエンジンは最も基本的なエンジンの1つ

スターリングエンジンの熱サイクルは熱機関の中では単純なサイクルであり、スターリングエンジンが基本的なエンジンの1つである所以です。

その単純さから、高校物理の教科書にもコラムとして載っていることもあります。

 

あまり大きな高温に耐えることのできないスターリングエンジンですが、STONE WORLD(ストーン・ワールド)のような頑丈な金属を得にくいような世界ではスターリングエンジンで得る動力も十分大きな威力を発揮するでしょう。

基本的なエンジンですが、奥が深いエンジンといえるでしょう。

(参考:産総研サイエンスタウンホームページ。https://www.aist.go.jp/science_town/environment/environment_12/environment_12_01.html)

 

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コラム:Dr.STONEってなに?

Takashiさんの記事でも触れられていますが、Dr.STONEは2017年に週刊少年ジャンプで連載を開始した漫画で、2019年7月にアニメもスタートしています。

原因不明の光線によって人類が石化した3000年後に復活した石神千空が、科学文明を発展させながら石化の謎に迫っていく物語です。

何もない段階から薬学や工学を発展させていく様子がフィクション的に描かれています。

個人的には、人類科学史をスキップしていることを作中で何度も明言したうえで、科学史や原理等に基づいた工学の発展、先端技術に近づけば近づくほど地道な工程が必要な様子等の作中で描かれている姿が科学の面白さや地道さを表現していて、面白い作品だと思っています。

興味がある人はぜひ読んでみてください!(コミックスの作者コメントでは、稲垣先生やBoichi先生がどのような点にこだわって書いたかが垣間見えることがありますので、是非。)

 

Takashiさんも理系とーくでサルファ剤についての記事を書いていますので、興味のある方はそちらの記事も是非読んでみてください!

関連記事:【Dr.STONE(ドクターストーン)】ルリを肺炎から救ったサルファ剤とは??

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