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こんにちは、食品微生物学系大学院生のAI (@AiKwhr )です。
皆さんは、”乳酸菌”の秘めたる力を知っていますか?
「お腹の調子を整える」みたいな宣伝文句もあるように、「乳酸菌=整腸作用」が主な機能のようなイメージがあると思います。しかし、それだけじゃないんです。実は乳酸菌はあまり知られていない重要な働きを持っているのです。今日はその、秘めた乳酸菌の能力についてお話していきます。
乳酸菌の生み出す抗菌物質
乳酸菌の定義は、「糖を消費して作り出す物質の50%以上が乳酸である細菌類」を指します。だから乳酸菌なんですね。(私たちが筋トレをして、「筋肉張ってるぞ、乳酸たまったぞ」っていう、あの乳酸です)
そして、実はこの乳酸菌から作られる乳酸は抗菌物質と呼ばれるものの一つで、私たちの生活に欠かせません。
ここで、”抗菌物質”というのは、有害菌の増殖を抑制したり、倒してくれる物質のことであり、実は環境中に普遍的に存在している物質のことです。(わさびに含まれる辛味成分等も、抗菌作用があると知られている例です)
例えば、お腹の中の乳酸菌が抗菌物質である乳酸を生産すると、その”酸”によりお腹の中のpHが低下します。すると、低pHでは有害菌・悪玉菌は生きていくことができないため、減少していきます。こうすることによって、私たちのお腹(腸)の健康は維持されるのです。(実はこれ、乳酸菌が自分自身の身を守るために酸を出しているのですが、私たちはその恩恵を受けているわけです)
このように、乳酸菌は(自分の身を守るため)様々な抗菌物質を作り出すのです。結果として、私たちの腸内環境を良いものにしてくれるヒーローなんですよ。
乳酸菌は、乳酸だけではなく、有機酸・酪酸・プロピオン酸などの抗菌物質を作り出したりもします。これらの抗菌物質によって、有害菌や悪玉菌を倒すのです。
特に、注目してほしい物質があります。「バクテリオシン」という抗菌物質です。あまり聞きなれない物質名だと思います。しかし、身近なところで使われていたりしますよ?
今日はこのバクテリオシンについて詳しく掘り下げていきます。
バクテリオシンと現在の研究
「バクテリオシン」という抗菌物質は、熱に安定、無味無臭であること、そして人の腸管内の消化酵素で簡単に分解できることから、商業的に製造されて食品保存料として使われているものもあります。その抗菌作用というと、食中毒細菌に作用を示すものや、自分と近縁種の乳酸菌に対して抗菌作用を示すなど、バクテリオシンを生産する乳酸菌の種類によって様々です。
待って、自分の近縁種の乳酸菌に対しても抗菌作用を示すの?
そうなのです。有害菌や悪玉菌だけを倒す訳ではなく、自分と似た菌まで倒してしまう性質もあるのです。
これについては諸説ありますが、一つ有望な可能性としては、乳酸菌による”生き残り戦略“であると考えられています。乳酸菌は様々な環境に存在していて、代表的なものにヨーグルトや漬物など、長期的に保存する食品にも見出されます。この長期保存期間中に、他の乳酸菌たちに負けじと生き残ることができるように、抗菌物質を作って、自分以外の菌たちを倒そうとして発展してきたのかもしれません。でも、これはあくまでも予想であり、このメカニズムについては詳細に明らかになっていないポイントです。
また、その乳酸菌体内での生産システム(クオラムセンシング)もユニークかつ精確であることから、現在この「バクテリオシン」に関する多くの基礎・応用研究が行われています。(管理栄養士養成大学に特異的な研究というわけではなく、農学部等でも行われています)
現在、実用化されているバクテリオシンの代表的なものである”ナイシン”は、世界50ヶ国以上で実際に缶詰やチーズ等に使用されている食品保存料です。食品保存料だけではなく、歯磨き粉のようなオーラルケアにも使用されています。(実は有名な菓子パンにも使われていたりします。)
このように、乳酸菌が生産する抗菌物質を利用することによって、化学合成された食品添加物を用いることなく安全に食品保存する技術がどんどん進歩してきているのです。
私たちの暮らしと乳酸菌
“食の欧米化”は、我が国において以前から指摘されている問題です。この食生活によって、戦後から着実に生活習慣病などの患者数が増えてきました。加えて現代では、多忙なライフスタイルによって、調理済み食品やインスタントの需要が高まり、さらに災害時では長期保存食が重宝されます。そしてそのような食品は、長期保存を可能にするために、たくさんの化学合成された食品添加物を含んでいます。
しかしながら、一般の方々の健康・天然思考から、化学合成された食品における安全性が問題視され、避けられるようになり、よりナチュラルな材料で作られた食品が好まれます。ここが、現代の食品保存技術の大きな山場であると思います。
一方、ヨーグルト、チーズ、漬物など、多くの”乳酸菌”が存在する食品のほとんどは、化学合成された保存料を含まずとも長期保存が可能です。これは、冒頭でも述べたように、乳酸菌が生産する抗菌物質が保存性に寄与しているからです。実は乳酸菌は、今も昔も、私たちの食生活に必要不可欠な存在なのです。
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最後に
バクテリオシンは安全性が高く、とても有望な抗菌物質です。加えて、”乳酸菌”や”発酵食品”が再び注目されはじめました。そのような近年の食のトレンドに伴い、乳酸菌バクテリオシン研究は加速してきました。乳酸菌の秘めたる機能としての幕開けとも言えます。将来は、「バクテリオシン生産乳酸菌使用」の表示があるヨーグルトや発酵食品などがスーパーの棚に並ぶ、みたいな時代が来るかもしれないですね。
バクテリオシンは初めて知りました!面白い記事ありがとうございます!
抗菌物質ってあまり聞き慣れない言葉ですが、抗生物質と同じですか?
菌に特化してたりするんでしょうか?
あと、バクテリオシンが腸内で分解されるってことは、腸内細菌バランスには影響を与えにくいって考えでOKですか?
takashi さん
抗生物質は、細菌が作り出す物質ですが、抗菌物質は、微生物だけでなく植物などに含まれる成分のことをさします。そして、抗生物質は分解されにくいがために腸管内で善玉菌を殺し、さらに糞便などに紛れて外の世界に排出されてしまうため環境中に暴露し、その暴露により新しい力を獲得した薬剤耐性菌が出現する問題などが生じてしまいます。抗菌物質(antimicrobial substans)特に、ここでいう乳酸菌が作り出すペプチドとしての抗菌物質は、ペプチドなので、お腹の中の消化酵素で分解されるため、例えば食品中では汚染菌の増殖を抑制し、私たちが口に入れるとお腹の中の消化酵素で分解され、環境中にも排泄されずに済みます。まさに、腸内細菌叢にも影響を与えにくいみたいです!(抗生物質は善玉菌をも殺してしまいますよね(汗))その点についても、より医学に近い分野の方々が研究されているみたいです!私もこの研究を始めるまでは聞いたことがありませんでした!
抗菌物質(antimicrobial substance)。そうなんですね!調べても「抗菌薬」しか引っかからなかったので質問させてもらいました。
抗菌薬や抗生物質が食品に対して使用されていたら、身の回りは耐性菌ばかりになってしまいますもんね。笑
ただでさえ日本は抗菌薬を処方しすぎなので…使いやすくていいですね、抗菌物質!
ちなみにバクテリオシンは、静菌的作用or殺菌的作用どっちなんでしょうかね?
安息香酸やプロピオン酸類は㏗による静菌的保存料だった記憶がありますが…興味深いところです。
抗菌薬となると化学合成されたものなイメージが私的にあります・・・(実際そうじゃないのかもわかりませんが)そうですね、抗生物質耐性菌の出現を抑制するためにも研究進めたい所存です!
バクテリオシンは、実は種類が生産菌によってさまざまな種類と特徴があるので、殺菌的あるいは静菌的、という言葉でよく表されます。ちなみに、メカニズムも最近は詳細に研究されていて、基本は指標菌の細胞膜に孔(あな)をあけ、そこから細胞質(ATPなど)を流出させることで死に至すという作用機序です。
私の希望としては食品だけでなく農薬だったり、殺菌効果のあるハンドクリームだったり、医療など、幅広く浸透させたいと思っています。ただ、それこそ薬学の知識が無いので、実際例えば医療に応用する時の現場からのニーズだったり、応用方法がわかれば、研究の新たなアイデアが生まれるのかも、と思っていました!
抗生物質は、菌が産生するもの。
抗菌薬は人工的な合成物+抗生物質というくくりですね!
なるほど、細胞膜破壊(壁かな?)はいいですね!壁選択であれば、殺菌的+菌への選択毒性(人細胞を狙わない)で理想的です!
タンパク質である以上、錠剤とかでの利用が厳しいですね。
注射での利用とかになりますがタンパク製剤は血管外の菌に効かせることが難しく体内向け医薬品としての利用には様々な壁がありそうです。
体外向けとして、軟膏、クリーム、歯磨き粉などとしての利用はありかもしれませんね。
ただ、薬学的目線で気になるのは、MIC(最小発育阻止濃度)の強さや、抗菌スペクトル(どれほど幅広い菌に効くか)でしょうか。
これが良ければ医薬品レベルですし、弱いのであれば健康食品(トクホ)とかのレベルでしょうかね?
人体に毒性が無いとした場合の話ですが…。
そういった研究関係の相談も「理系とーくラボ」でやっていきたいですね!薬学医学関係の方もいますし。
https://rikei-talk.com/online-salon/