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こんにちは、フリーランスのメディカルライターをしているワイルド研室長です。
前回は、「どの論文から読めばいいかわからない」という人向けに、大まかな論文の種類や、読むべき論文の探し方について解説しました。
前回の記事→初心者はどんな論文から読めばいいの?
では仮に、1報の論文を読むことに決めたとしましょう。
あなたはどうやってその論文に立ち向かいますか?
最初の単語から1語1語、意味を拾っていきますか?
もちろんそれでもOKですが、はじめに論文全体の構造を理解しておくことで、論文はずっと読みやすくなります。
今回は、内容理解を大いに助けてくれる論文の「構造」をテーマに、記事を書いていきます。
大切なのは英語力ではなく「国語力」
論文を読むのが苦痛になってしまう理由の1つが、「英語ができない」ということだと思います。
たしかに、いちいち単語の意味を調べなければならないのは大変ですが、普通の人であれば、がんばって10報も読めば自分の分野の論文を理解するのに必要な英単語は頭に入ってしまいます(→過去記事「英語の論文にビビらないために」参照)。
それでもなお論文を読むのが苦痛という人には、英語力以外に別の問題があるに違いありません。
私は、その問題というのは、「国語力」にあると思っています。
つまり「筆者の言いたいことは何か?」を理解する力です。
高校までの国語の授業では「筆者の言いたいことは?」と訊かれて、心の中で「知らねぇよ笑」と返して済んでいたかもしれません。
しかし残念ながら、理系の学生になったからといって、国語力を養うためのトレーニングを放棄していいわけではないのです。
「論文の読み書き」という形で、国語力が必要になるのですから。
でも安心してください。
論文には決まった書き方があるし、「筆者の言いたいこと」の表現方法にあまりバリエーションはありません。
逆に言えば、「筆者の言いたいこと」を理解できるようになるには、論文の「構造」を覚えてしまうのが近道なのです。
論文は研究内容を伝えるために最適な構造をしている
1度でも論文を読んだことがある人であれば、「論文の構造」と聞いて、真っ先に4つの項目を思い浮かべるのではないでしょうか。
つまり、「イントロダクション」「方法」「結果」「考察」です。
では、論文がなぜこのような4つの項目をベースに書かれるのか、考えたことはありますか?
論文がこのような構造で書かれている理由の1つは、研究成果を「わかりやすく伝える」ために最適な形だからです。
そもそも、論文でも、小説でも、新聞記事でも、文章を書くという行為は、何かを伝えるためにするものですから、究極的には「伝わる」文章でなければ意味がないわけです。
このように言うと、「論文ってわかりにくいぞ!」という反論が聞こえてきそうですが、「わかりにくい」と感じる一因は、「論文の構造のわかりやすさ」を知らない読み手にもあります。
「イントロ」「方法」「結果」「考察」から成る構造が「なぜわかりやすいのか」を知っておけば、きっとスラスラと内容が頭に入ってくることでしょう。
盲目的に「論文というものはそういうものだから…」としか考えていないと、論文読解の苦痛からいつまでも逃れられないままです。
ここでは、各項目の関係性をどのよう理解しておけばいいのか、解説していきます。
論文は入れ子構造になっている
論文内の各項目(イントロ、方法、結果、考察)は、何の意味もなくこの順に並べられているわけではありません。
実は、これらは次のような関係性にあります。
つまり、内容的にはイントロダクションと考察が対になっており、方法と結果が対応しています。
そして、「イントロダクション&考察」の大枠の中に、「方法&結果」が入り込んでいる、入れ子構造になっているのです。
抽象的で少しわかりにくいので、具体的な例を出して考えてみましょう。
はじめから学術的な内容にすると面白くないので、まずはみなさんご存知の「桃太郎」の話をこの構造に当てはめてみます。
こうすることで、論文の構造が「物語」を伝えるために汎用性の高い形をしていて、特殊なものではないということをわかっていただけるのではないかと思います。
桃太郎の例
イントロ:村の人たちが鬼に困らされていたため、鬼を討伐するという大いなる目標を立てた。
方法1:きびだんごを入手した。
結果1:犬・猿・キジを味方につけることができた。
方法2:桃太郎と動物たちが、鬼ヶ島を襲撃した。
結果2:鬼たちをやっつけることに成功した。
考察:鬼退治という目標が達成され、村に平和が訪れた。
これを図にすると、次のようになります。
誰でも知っている桃太郎の話を、論文と同じ構造にうまく当てはめることができました。
さて、ここで考えてみて欲しいのですが、桃太郎の話を聞いて「わかりにくい」という感想を持つ人は、果たしているでしょうか?
子供にも語って聞かせるほどポピュラーな物語ですから、ストーリー自体がわからないという人はほとんどいないのではないかと思います。
つまり、このような構造をした文章は、「わかりやすい」ものなのです。
これだけの説明しかしないと、「何かダマされているのではないか」という印象を持つ人もいるかもしれないので、次のような研究例を考えてみましょう。
桃太郎と研究論文に書かれている内容が、本質的にはほとんど違いがないことがわかってもらえるのではないかと思います。
オニオニ病研究の例
イントロ:全世界で毎年100万人もの人が罹患する「オニオニ病」を制圧するため、治療薬を開発するという目標を立てた。
方法1:薬の候補となる化合物を見つけるために、細胞を使ったケミカルスクリーニングを実施した。
結果1:イヌアミン、サルアミン、キジアミンという3つの候補物質を見つけた。
方法2:オニオニ病モデルマウスを使って、候補物質の治療効果を確かめた。
結果2:3つの候補物質のうち、イヌアミンは高い治療効果を示した。
考察:オニオニ病の治療薬候補となるイヌアミンを見つけることができたため、これを市場に出せればオニオニ病を制圧できる可能性がある。
この例はもちろん架空の研究ですが、学術論文の構成としてはよくある形だと思います。
オリジナルの桃太郎の話と比べてみて、果たして根本的に大きな違いがあるでしょうか?
研究論文もある意味では「物語」と同じ構造をしていることを、理解していただけたのではないかと思います。
論文はなぜわかりにくいのか
論文も一般的な物語と同じ構造をしているならば、なぜ論文は物語と同じようにスラスラと読めないのでしょうか?
その理由の1つは、論文を読みはじめたばかりの人は、どこが話を前に進める部分で、どこが話の進行と関係のないディテールの部分なのか、判断ができないからだと思います。
桃太郎の例で言えば、「きびだんごはどうやって作るのか」とか、「犬はどんな犬種なのか」とかいったことにばかり気を取られて、ストーリーの大枠が見えていないのです。
ですから、論文を読むのが苦痛な人は、ぜひ「イントロ&考察」で書かれている論文全体の大枠を意識しながら読んで欲しいと思います。
どんな論文でも枠は同じ
論文はわかりやすい構造をしていると書きましたが、その理由は、どんな論文でも大枠・小枠の形が同じだからです。
つまり、「大枠=イントロ&考察」「小枠=方法&結果」という形は、どんな論文でも変わらないということです。
小枠の方は、上の例のように複数ある場合もありますが、大枠は基本的には1つであることが圧倒的に多いです(すべてではないですが)。
論文を読み慣れない人は、まず次のような項目を紙に書いてみて、論文を読みながら埋めていってみてください。
ポイントは、なるべく1文か2文くらいに短くまとめて書くことです。
イントロ:
方法1:
結果1:
方法2:
結果2:
・
・
考察:
ここで1点注意ですが、実際の論文では、上に示したように「方法1」「結果1」「方法2」「結果2」…というように親切な並びになっていません。
「方法」がひとまとまりになっていて、「結果」がまた別の項目としてまとめられているのが普通です。
そこで1つテクニックなのですが、「方法&結果」の小枠は、結果の方から埋めていく方が読みやすいと思います。
なぜなら「結果」の方が、論文のストーリーに沿って文章が進んでいくからです。
逆に「方法」は、必ずしもストーリーの順番で実験手法や材料が登場するとは限らないため、前から順番に読んでいく必要はありません。
ですから「結果1」「結果2」…と埋めていってから、それに対応する「方法1」「方法2」…を埋めていく方が効率的です。
全体を読んで項目をすべて埋め終わったら、イントロと考察がしっかりと対応しているか、方法と結果がそれぞれ対応しているか、確かめてみてください。
もしうまく噛み合わないようだと、論文をきちんと読解できていないということになります。
繰り返し練習していけば、いちいち紙に書かなくても、物語を読むように論文を理解できるようになりますよ。
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まとめ
今回は論文の構造について書いてみましたが、いかがでしたでしょうか。
今回は誰でも知っている桃太郎を例に出しましたが、みなさんの好きな映画やアニメのストーリーを論文の形式に当てはめてみてください。
純文学はちょっと難しいかもしれませんが、一般的なエンターテインメント作品であれば、ほとんどのものは驚くほどぴったりとハマるはずです。
「論文はわかりにくいものだ」という意識を少しでも拭い去ることができていればいいなと思います。
最後に今回の内容をまとめておきます。
- 論文を読む上で大切なのは英語力よりも「国語力」
- 論文は「入れ子構造」になっていることを理解しよう
- 論文は「物語」と本質的に同じであることを知っておこう
- 慣れないうちは、論文がどんな「枠」で書かれているのか確認しながら読んでいこう
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