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こんにちは、わもんです。
前回は私の専門分野である医療機器の記事を書かせて頂きました。医療機器を成り立たせるためにはさまざまな分野の知識が必要であり、それを学ぶことができるのが医工学系の学科です。
大学で医工学を学びたいと思っている、もしくは進路選択に悩んでいる高校生の皆さんに情報を提供したり、医療機器に興味のある方の需要にうまく応えられるように頑張っていきますので、よろしくお願いします。
さて、今回も前回に引き続き、医療機器についてお話します!
前回がAEDに関するテーマでしたので、同じく心臓に関係する医療機器であるペースメーカーについて解説していきます。
目次
どんな医療機器?
ペースメーカーってどんな医療機器なのか、イメージがつきづらくありませんか?
おそらく実際に、目で見たことが無いから分からないのだと思います(そういう私も一度しか見たことがありません)。でも言葉そのものは知っているし、ペースメーカーという言葉を医療分野以外で聞いたことがあると思います。
マラソン中継を見たりする方は、マラソンが始まってからレース序盤まで先頭集団を引っ張る人たちがいますよね。彼らのことをペースメーカーといいます。
マラソンでペースメーカーが導入されているのは、序盤でランナーたちのライバル意識によりレースを乱さないようにしたり先頭集団の基準となるペースを作るためだそうです。
そういうところから、ペースメーカーという言葉には、「基準を乱さないように・乱れた場合に基準に戻すように」というようなニュアンスがあると思いませんか?
では、心臓において使用される「ペースメーカー」とは、どんな役割を持っているでしょうか?
「心拍数を乱さないように・乱れたら基準の心拍に戻す」ということになりますね。
これがペースメーカーの役割そのものです! ぜひ覚えておいてください。
ペースメーカーを理解するための基本知識
どのように基準の心拍に戻すのか?
医療機器のペースメーカーには、「心拍数を乱さない・乱れたら基準に戻す」役割があると説明しました。では、どうしたらそんなことができるのでしょうか?
おそらく、前回の私の記事:知っているようで知らないAEDの原理について解説します!を読んでいただいた方は想像がつくと思います。
それは、心臓に対する電気刺激です。この電気刺激により、心臓の興奮を促し、周期的な刺激を心臓に与えることで心拍をコントロールします。
心臓に関する知識
ペースメーカーを理解するために必要な心臓に関する知識は前回のAEDの記事で紹介済みなのですが、追加して補足しておきます(ここで詳しくは触れませんが、心臓の伝導系について学ぶと仕組みがより分かるようになると思います)。
・徐脈
これは頻脈の反対で、脈が遅くなっている状態です。脈拍1分あたり、60を下回る状態が続くと徐脈となります(一般的な脈拍は1分あたり60から70程度です)。
・徐脈性不整脈
頻脈性不整脈の反対で、適切なリズムで心臓の収縮が行われず、うまく血液が送り出せていない状態です。ペースメーカーは、この徐脈性不整脈に対して治療・対策を行うための治療機器ということになります。
前回のAEDの記事でも紹介させていただいた、不整脈に関する動画です。興味のある方はご覧ください。
なぜ徐脈が起こるのか?
脈が遅くなる徐脈や、逆に速くなる頻脈などの不整脈がおこるのは、心臓の興奮が適切に行われていないからです。
下の写真で赤字で示した洞結節と呼ばれるところから電気刺激を発生し、心房と心室が収縮することにより左心室から全身に血液が送り出されます。
正常な心臓の興奮が行われない原因は、①洞結節の電気刺激がうまくいっていない(洞不全症候群)、②心房まで電気刺激が伝わっているが、心室にうまく伝わらない(房室ブロック) ということが考えられます。
特に②の心室にうまく伝わらないというのは、正常なタイミングで興奮できない(伝導に時間がかかっている)という状態や、そもそもまったく伝わっていない という状態であり、まったく伝わらない状態は心室が興奮しないので全身に血液を送り出せなくなり、失神などの重篤な症状になることがあります。
ペースメーカーでの治療
ペースメーカーの役割は、心臓に電気刺激を与えて基準のリズムに戻すことの他、心電図(心拍でも可)を監視しなければなりません。なぜなら、正常な興奮をしている心臓に電気刺激を与えるのは非常に危険だから(参考:知っているようで知らないAEDの原理について解説します!)です。
つまり、正常な心拍が得られないときに刺激を与える必要があるので、心電図を常に監視しておく必要があります。しかしこれは、容易なことではありません。
心臓で観測されるものは、心拍以外にも心房・心室以外の心臓の動き、筋肉を動かしたときの筋電位、体の外からの電磁波など様々な雑音が乗ってきます。
・・・しかし、これの雑音対策を説明するとマジな講義になるので詳しくは省かせてください。
*詳しく知りたい方へ:キーワードとして、①ファーフィールドセンシング、②スルーレート、③不応期設定 などで検索すると、情報が出てくると思います。
体内に入るペースメーカー
ここでは、実際に使われるペースメーカーについて説明します。ペースメーカーは体外式と体内に入れる埋め込み型があります。ここでは、一般的に、ペースメーカーとしてのイメージが強い体内埋め込み型ペースメーカーの説明をします。
このペースメーカーは、電気刺激を心臓に与える電極、電子回路、刺激を行うための本体です。
ペースメーカーには、刺激する場所や方式によりいくつか種類があります。
現在では、心房と心室の興奮を監視し、必要があればペーシングを行うデュアルチャンバ型、走ったりすると変化する心拍に対応するため様々なセンサーによりペーシングのリズムを変化させる心拍応答型などがあります。
体内埋め込み型ペースメーカーについて、興味のある方はこちらをご覧ください。心臓の伝導系に関するところも紹介されています。
もう少し詳しく知りたい方へ
少し専門的な内容になりますが、補足しておきます。
動画のように、心臓へと挿入した電極の先端は陰極となっており、2.5Vほどの電圧が刺激として与えられます。洞結節のペーシング閾値(心臓を興奮させるのに必要な電位)は、約0.5Vほどなので、2.5Vの電圧で確実に興奮(専門用語で脱分極といいます)させることができます。
豆知識
最後に、紹介してきたペースメーカー分野の簡単な豆知識をお話ししたいと思います。こういう知識を持っていると、学習意欲や知的好奇心のもとになるのでぜひ覚えていってください!
・体内埋め込み型ペースメーカーの刺激を行うための本体を埋め込むときに、チタン製のケースが使われています。これは、チタンが人間の身体に対して害を及ぼさず、人間の血液などの体液がチタンに対して劣化をさせないという利点から使われています。
このような性質は非常に重要で、インプラントや骨折の治療などにチタンプレートがよく使われるのはこのような理由からです。人間の身体に接触する医療機器は、このような生体親和性というものを考えながら、使用する材料も検討する必要があるのです。
・電車の優先席などで携帯電話の電源を切るようにアナウンスがある理由の1つは、体内埋め込み型のペースメーカーを付けている方がいた場合、携帯電話の電磁波が心電図に雑音として載ってしまうと、正常なペーシングができなくなるからです。
だいたいペースメーカーと携帯電話を15cm以上離してあれば影響はないといわれています。
(CMです)
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おわりに
今回は前回に引き続き、心臓に関係する医療機器の1つであるペースメーカーについて解説させていただきました。重要な点を中心に話して細かい部分は省いたので疑問点を持った方がいるかもしれません。
私の記事を読んで、医療機器に興味を持っていただけたら嬉しいです。ご意見等ありましたら、@wamoaza0222までご連絡ください。また、自己紹介記事に私のこれから書くつもりの記事も載っていますので、リクエスト等大歓迎です!
以上、ありがとうございました。
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